40、交換日記。

「ほら、あのコが椎名未来だよ。」
「へぇー、ちっちゃいんだね、その割には、すげぇじゃん。他校生に彼なんかいるんだね。」
「そうそう、結構大人しそうなのに、藤木高士と付き合ってるかと思ったら違うんだねぇ。」

あっという間に陰口が回ってた。

どぉしよぉーーーー。。。

「未来、あんた、もう少し自分に責任持ちな。ただでさえ、藤木と付き合ってるとか噂されてたんだからさ。」

 放課後に、そういう若葉ちゃん。

「でも、かずくんは・・幼なじみみたいなもので。」
「だけど、現に未来は有名だよ。ウチのクラスでも、未来と藤木が付き合ってると思ってるヤツら多いもん」

と、さっちゃん。

「でも、違うもん。」
「だけど、若葉の言うとおり少し大人しくしてたほうがいいよ。」
「ん。。」

どうして噂は広まるのだろう。
私の気持ちとは裏腹に、、。

次の日、お休みだったので若葉ちゃんと遊んだ。

「これが問題になった文房具屋さんね?」
「うん。」

 かずくんと一緒に来た文房具屋さんにきてた私達。

「ココの近くに直子のマンションがあるの知ってた?」
「えっ? そうなの?若葉ちゃん。」
「うん。ほら、あのマンション。」

 もしかしたら・・・直子に見られてたのかもしれないんだね。。

困ったなぁ。。

「未来、このノート可愛くない?」
「あ、ホントだぁ。イルカ柄でいいねぇ。」
「ね? クラス離れちゃったしさ・・。未来も私も委員会や部活あってあえなくなるからさ。交換日記しない?」
「え?」
「いやぁ??」
「ううん、しよう!!」

 そう、若葉ちゃんと交換日記をつけることになったのだ。

 最初は若葉ちゃんからで、次の日、学校に行くと、早速渡された。

 お家に帰って見ると

「私はさぁ、時ちゃんが好きだけど、最近困った問題があってさぁ。ウチのクラスにいる深織って子がね狙ってるらしいんだ。 しかも、時ちゃんは最近クラスの梶谷とラブラブ(?)だって、幸子から聞いてショックだった。

 未来は、まだ高野のこと好き?

最近、藤木や、かずくんだっけ? 噂になってるけど、未来自身の気持ちは、どうなのかな?って思ってね。
 でも、藤木と話してる未来を見ると、マンザラでもなさそうとか感じたよ。」

色んなツッコミが来たな。。

『梶谷くんって確か、さっちゃんと同じ委員会してる人だよね? 前に少し話したけど、面白い人だったよ。

 私は、分からなくなってる。高野くんの事、分からなくなってきてる。

だから、友達として藤木くんやかずくんと仲良くできちゃうのかもしれないね。』

 ふぅー。。。

ほんとどうしたらいいんだろうね?

私は、どうしたらいいんだろうね?

 私の初恋。
終わっちゃうのかな?

 修学旅行まで、あと3日となった日。

「私も修学旅行バックれることにしたから」
と、突然のさっちゃんの言葉。

なんで??

 私や若葉ちゃんは、頭が真っ白になった。

「私は、幸子や明日香の修学旅行のバックレは理解できない。」

 そう日記で書いた若葉ちゃん。

だんだん4人の歯車が合わなくなってきてるのかもしれない・・・。
39、人の噂も・・・

 三者面談で詰まった私。また、個人面談などもあるからと先生は私に、その時までに行きたい高校を2、3校選んでおいてと言っていた。

 私の夢・・・保母さんになりたい。
昔からの夢だった。
それもいえないまま、三者面談は終わった。

 保母さんはピアノが弾けなきゃいけない。
でも私は、ピアノなんて習いにいってなかったから、できない。猫ふんじゃったでさえも弾けない。

こんな私が・・・保母さんになりたいなんて言ったら笑われるかもしれない。

 部活に出ると、高野くん達と明日香ちゃんが話していた。

「未来ー、遅かったジャン?」
「あ、うん。」

 自分のFDをバックから出して、ワードを始める。

「未来? 何やってるの?」
「うん、小説書いてるの。」
「小説?」
「うん。」

 一人の少女の悩み。
たぶんモデルは私自身なのだろう。

 キィ打ちが、まだ慣れない私。

 私は、これから、どうしたいんだろう。。
 ずっと悩んでる。

そして・・・5月に入った。

「修学旅行先は東北です。2泊3日です。」

 修学旅行が終われば、部活も委員会も一応、引退になる。

「班は、出席番号順の席で決めました。よく目を通しておくように。」

 学級活動の時間、修学旅行のことがたくさん話されてた。

 回ってきた資料を見て唖然。

「3班・・・椎名 未来、清水 隆之・・・」

 あ!!

そっか、名字が近いから、同じ班になっちゃった。
明日香ちゃんや、さっちゃんにまたジェラシー燃やされそうだなぁ。。

 清水くんは、2年の時よ落ち着いた。一時期、不良グループと行動してたけど・・・どうして、また元に戻ったのだろう。

「椎名って、1年の時、2組だったよね?」

 ドキン!!!

清水くんが私に声を掛けた。

「う・・うん、そうだよ。」
「橋本明日香と仲良かったろ? だから知ってるんだ。」
「うん、明日香ちゃんとは幼稚園からの友達なの。」
「ほぉー。同じ班だからよろしくな」


「未来ずるーい!同じクラスのなのもずるいけど、修学旅行の班まで一緒だなんてー。」

 さっちゃんが言う。

 放課後、みんなで図書室でお勉強しようってことになって、私が委員会の当番の日、結構揃うようになってきた。

「でも、意図的じゃないし、先生が決めたんだよ?」
「ずるーい。そう思わない?明日香。」
「確かに幸子が言うようにずるいけど、私、修学旅行に行かないつもりだから。」

「え??」

 私達3人は声を揃えた。

「だって、つまらないわよ。私の班なんて。だから私はバックレるから。」
「正気なの?明日香。」

 若葉ちゃんも驚きながら問う。

「正気よ。」

 そう言って、席を立った明日香ちゃん。

 その日、塾もあった私は、塾でも悩んでた。明日香ちゃんは、嘘を言わない子だから、絶対に本気だと思った。

「あ、椎名。その消しゴム何処で買ったの?」
「かずくん。」
「塾帰りに一緒に帰ろうぜ。」

 OKしたわけでもなく、自転車に乗って一緒に帰った。そして、消しゴムが売ってる文房具屋さんに二人でいった。

 次の日。

「3−4 椎名未来、他校生の彼氏と文房具屋にてデート」

と、掲示板に書かれてた!

「えっ???」

かずくんは彼氏じゃないのにぃ・・。
えーん、どうしよーーーー。。。
38、私の夢は…?

「えーっ?? 明日香ちゃん、どうして?」

 始業式を休んだ、明日香ちゃんが次の日、とんでもない発言をした。

「だから、美術部は辞めるの。未来、同じ部活に入ろうよ。」
「だって、明日香ちゃん、あんなに絵上手じゃない?」
「直子がいるからよ。もう、関わりたくないんだし。それに高校で頑張ればいいしさ。」
「でも・・でも。」
「未来、何部だっけ?」
「ぱ・・パソコン部。」
「私も入部希望出しに行くからね〜♪」

 あ・・明日香ちゃん。
私、そんなに部活出てないんだよねぇ・・困ったな。

 そして、3者面談が始まる。

そのため、図書室開放は、されてなくて、部活はOKだったため。久し振りに部活に顔を出す。もちろん、明日香ちゃんも一緒だ。

 入り口で、ひょこっと顔を出すと・・顧問の白ちゃんが私を手招きする。

「白ちゃん、ごめんなさい〜。部活出てなくて。」
「椎名、椎名。椎名に頼みたいことがあるんだ。」
「へ?」
「高野と一緒に部長になってくれないか?」
「はい??」
「部長が決まらなくてな。まぁ。気にするな。ただ、名前だけ貸してくれればいい。」
「き・・気にするよぉ!!!! それに私、委員会が忙しいし・・。」
「ま、それは高野も一緒だし。引き受けてくれないか?」

 私は悩んだあげく・・・OKをしちゃった。

名前だけの部長。
しかも高野くんと。

 明日香ちゃんは、他のクラスの男子とも仲良く、お話してるし。。

 ブロックでポンで遊んでると・・・

「白井先生、遅れました。」
と、高野くんがパソコン室に入ってきた。

「おぉ、高野か。そうだ、ちょっと待ってろ。 おい、椎名! 椎名未来!」

フルネームで呼ばないでヨ、白ちゃん・・。

と、思いながら白ちゃんの所に行く。

「今日から、高野と一緒に部長として頑張ってくれる。椎名だ。高野は椎名を知ってるか?」
「あ、はい。1年の時、同じクラスだったし。」

すらりと答える高野くん。
私は俯いたまま。
目を合わす事も出来ない私。

 ただ、苦しくて。

そして・・私の3者面談の日がやってきた。
しかもトップバッターだし、しかも私の後の人が清水くんだったのだ!!

 明日香ちゃんや、さっちゃんがウキウキしながら私の事を待つという。

「こんにちわ。未来さんのお母さん。ご無沙汰してます。どうぞ、お掛けになってください。」

 井出先生とは、2年の時にも担任になったから、母とは面識がある。

「えー、未来さんは2年の時から、ホントに素直で純粋な子でして、図書委員として凄く良い評価を受けてますよ。それに文学少女なのかしら? 読書感想文とか、国語の先生がいいって言ってましたよ。ただ、漢字が苦手みたいだけどね。」
「あらら・・すいませんね。ウチの子、バカだから。」
「未来さんは、どんな高校に行きたい?」
「私は・・・」

 私、何処に行きたいんだろう?
 何になりたいんだろう?

答えが出せなかった。

 私・・・
自分が分からなかった。

 何になりたいんだっけ?
37、最後の1年。

「きゃあああ・・。」

 去年と同じな私。遅刻ぎりぎりで校門を通過。

「おっはよー!未来!」

 最初に私を見つけてくれたのは、さっちゃんだった。

「おはよぉ!さっちゃん。お久し振り!クラス変え表見た?」
「まだ見てないけど・・ってか、未来、髪切ったねぇ。」
「あ、分かった?」

 そう私は、始業式の前日、髪を切ったのだ。背中の真ん中より上くらいまで長かった髪を、肩くらいに切ってしまったのだ。

「幸子ー、未来ーっ!」

 若葉ちゃんが走って駆け寄る。

「若葉ちゃん、おはよぉ!」
「おっはよー!元気だった?」
「若葉、相変わらず元気だなぁ。」
「ところで、クラス変え表見た?ビックリだよぉ」

 そう言われて3人で見に行く。

角田 若葉・・1組・・下出 啓一
椎名 未来・・4組・・清水 隆之・・藤木 高士
牧村 幸子・・5組・・時岡 理・・鶴巻 直子
橋本 明日香・・6組・・高野 望

ひょええぇぇぇ!!

な・・なんだ、このクラス変えはぁ。。

 私・・また藤木くんと同じクラスになっちゃったし・・さっちゃんや、明日香ちゃんの好きな清水くんとも同じクラスだぁ。

 しかも、高野くんは明日香ちゃんと同じクラスで、さっちゃんは直子や時ちゃんと同じクラス。

 若葉ちゃんは、しもちゃんと同じクラスで平穏そうだなぁ・・。

そういえば・・

「ねっ、明日香ちゃんは?」
「明日香・・そういや見かけてないなぁ・・。」

どうしたんだろう? 明日香ちゃん。

 始業式も終え、教室に入る。

去年は・・明日香ちゃんも、さっちゃんもいたから一人ぼっちじゃなかったけど・・今日は、一人ぼっち。寂しい。

 みんな、他の子とお話してるし、私は・・・その輪の中に入れない。

「はい、席ついて!」

 なんと! また担任は、井出先生だった。

「今日から、君達は、我が校の顔となるわけです。3年生として、恥のないよう、慎むように。君達の中で私が担任になるのが2回目の人もいるだろうけど、みんな同じですから。頑張って、受験を乗りきりましょう。」

 受験・・。そういえば・・このクラス・・。頭のイイ子がいっぱいだなぁ。。

 主席争いしてる人達が5人もいる・・。相対評価な成績だから、難しいなぁもぉ。

 いくら塾で勉強し始めたからって・・。

「椎名? しいな・・」
「あ、藤木くん。」
「もう終わりだぜ。」
「あ、うん。」

 席を立つと、その近くに清水くんが通る。

背の高い人、スラリとしてて、笑顔がユニークで、でも、まだ話したことのない、明日香ちゃんと、さっちゃんの好きな人。

「椎名?」
「あ、うん。ごめん。帰ろう。」

 私は、このクラスに馴染めるのだろうか?
 いくら藤木くんがいるからとは言え、男の子とだけ仲良くしてても、他の女の子の目が気になるし。

「担任、久山だったよーラッキー♪」

と、若葉ちゃんは絶好調のようにVサイン。
「うん。」
「ちょおっと、未来、どうしたの?」
「さっきから、椎名、こうなんだよな。」
「未来?」

「大変・大変!!!」

 さっちゃんが私達に向かって走ってきた。

「幸子どうしたの?」
「な・・直子がっ!! ウチのクラスの担任になったのって、新任の菊池先生っていうんだけどぉ。直子が、菊地先生を狙うぞ宣言してたよ!!」
「また、あのバカが。。」

 なにかが変わった気がした。

かわれないのは私だけ?

このまま3年生の1年を、過ごしていくのかな。
36、しばらく「さようなら」しよう。

 また、春が近づいてきた。

3学期も今日で最後。それと同時に、若葉ちゃんや、明日香ちゃん、さっちゃんとの4人で過ごした1年も終わり。 私達が3年生になったら、また、4人揃って同じクラスになる確率は低い。だから、ずっと教室にいたい気持ちになってた。

 あれから、ずっと直子と離れてた私達。

私は・・臆病者だ。

 スキー教室以来、高野くんを避けてる。

もう、好きなんて考えていられなくなる。春休みから私も塾に通い始めることになってるからだ。

「未来ー、帰るよぉ。」

 部活のミーティングに出てた若葉ちゃんが、藤木くんや、しもちゃんを連れてお迎えに来た。

「4月から、中3かぁ・・。」
 そう、藤木くんが言う。

「椎名、3年になっても、図書委員?」
 しもちゃんが私に、そう聞く。

「うん、そうだね。でも、しもちゃんと、また同じクラスになったら取り合いになっちゃうね(苦笑)」
「ったく、未来は、また委員会に熱を出すわけ? 3年になったら部活に熱を出さないの?」
「でも、私、運動ダメだから。」

 そう話しながら、いつもの角に来る。

「椎名。」

 藤木くんが私を呼んだ。
「なに?」
「あのさ・・お前さ、高野のこと・・もういいのか?」
「・・・。」
「ちょっと藤木? また未来に思い出させるつもり?」
「いや、そういうわけじゃなくてな。もし、3年になって同じクラスになっちまったら気まずいだろうなって思ってさ。」
「私・・もういいわけじゃないけど。しばらくの間、忘れてようと思う。」
「そっか。」

 好きだった。

でも、今は空っぽで全然分からない。
好きな気持ちが分からなくなっていったんだ。

 そして、春休みになり、私は初めて塾に通い始めた。
その教室で・・

「えっ?椎名じゃん??」
「えぇ??? かずくん?」

 小学生の時、同じクラスになったことがあって、私が剣道やってた頃、野球をやっていた和之くんこと、かずくんがいたのだ。

「すっげぇ・・久し振りだなぁ。」

 そうっか。かずくんは西の中学校に行ったんだっけ。

 でも、かずくんとは仲がすごく良かったわけじゃない。
 小4の時、かずくんと噂を立てられてから、話せなくなったはずだったのに。

 この再会が、少しの私に勇気を与えてくれるとは分からなかったけど。

 塾は毎日あった。

 塾の勉強も大変だったけど、かずくんと小学校の時の想い出話とかして・・私は、高野くんのことを忘れていた。忘れてた。

 4月の始業式まで忘れてた。

本当に、しばらくの「さようなら」つもりだった。
35、スキー教室・最終日の悪夢。

「お世話になりました!」

 お世話になったベルデ武石の皆さんに向かって、私達はお辞儀をして、バスに乗り込んだ。

 なんか、疲れたなァ・・。色々、思いが変わった気がしてた。

 せっかく、初日は嬉しかったのに・・何故か、首を傾げてしまうかのようの気持ちが募る。隣に座ってる若葉ちゃんも、その空気を感じ取ってるみたいで、何も言わない。

 そして、釜飯で有名な場所で、お昼休憩となった。

「ふぅっ・・・。」

 食欲無いなぁ・・。隣で食べる、若葉ちゃんや明日香ちゃん、さっちゃんが心配そうに見つめていた。

「未来、コレあげる。」

と、明日香ちゃんが具の中の椎茸を私の口に入れた。

「んぐ・んぐ・・。ん・・・。」
「未来、ちゃんと食べな。食べさせてあげるから。」
「明日香ちゃん・・。うん。頑張って食べるよ。」

 私は、ゆっくりとだけど食べ始めた。

それを目の前で見ていた、藤木くんも安心したかのような顔してた。

 ご飯も食べ終わって、お土産屋さんで時間が取られてた。

 その時だった。

「うわぁぁぁぁ!!!」

 ん?

「た・・助けてくれぇ!!」
「と・・時ちゃん?」

 時岡くんが走ってた。若葉ちゃんが、そっと駆け寄る。

「どうしたの?時ちゃん。」
「つ・・鶴巻直子が・・・。」
「えぇ??」

 走ってきた直子が立ち止まった。

若葉ちゃんが厳しい顔をしている。

「ちょっと、直子、顔貸しな。」
「やん♪ この美貌が、そんなに欲しいの? わ・か・ば♪」
「ふざけてるんじゃないの。とっとと、顔貸しな。」

 私は、若葉ちゃんについてく。

 バスの駐車場の裏。 外だから、少し冷たい風が頬をさす。

「直子さ、あんた、どういうつもり?」
「何が?」
「あんた、色んな男を追っかけまわしてるみたいだけどさ、迷惑なんだよね。あんたとは友達とも思いたくないんだ。私、許せない。」
「ヒガミ?」

 直子は、クスッと笑いながら言った。

「何よぉー!」
「わっ若葉ちゃん!!」

 若葉ちゃんが、直子に詰め寄ろうとしたのは私は食いとめた。

「私は、あんた達みたいに凡人じゃないの。可愛いし、気が利くし、可愛い女を男が放っておくほうが可笑しいじゃない?」
「あんたは間違ってる。」
「まぁ、若葉みたいに男っぽかったり、未来みたいにひ弱を比べたら、未来の方が可愛いかもしれないけどね、私には劣るけどさ。」

「直子、まさか・・・。」

 若葉ちゃんが、息を飲んで言う。

「私や、未来や、明日香や幸子をバラバラにするために、私達の中に紛れてきたんじゃないの?」
「それが、どうかした?」

 直子が、シラッとして言う。

「やっぱり・・思ってたんだ。清水のことだって、藤木のことだって、時ちゃんのことだって、私達に関係してる男達だから。」

「友情なんて、所詮、壊れてしまうものよ。恋愛がからめばね。」

 そう言って、直子は去っていった。

 若葉ちゃんは、やっぱりと言った。

 どうして? どうして? 恋愛と友情は両立できないの?

 そんな事ないよね?

 私は、直子が言い放った言葉の意味が分からず、ただ、苦しい気持ちが募っていった。
34、スキー教室・3日目

「未来、ちょっといい?」

 スキー教室も明日で終了という3日目。若葉ちゃんが、私を部屋の外に呼び出す。

「どうしたの?」

 私は、足を少し、ひきずりながら二人で談話室近くのホールに行く。

「未来さ、すごく言うのが辛いんだけどさ。」
「うん?」
「高野のこと、諦めたほうがいいと思う。」
「えっ?なんで?」
「高野・・あいつ、女のコの気持ち分かってない。」
「えっ?」
「今日も未来さ、宿舎に残ったじゃん? で、今日の練習の時に、私見たんだ。洋子が高野に告白してた。」
「えっ・・?」

 洋子さんが告白?

「でも、高野は振ったけど、その後言った言葉が最低だった。」
「なんて?」
「『俺は、女には興味ないんだ。ほっといてくれ。』って。」
「・・・。」
「だから、未来も、きっとそう言われるよ。私、未来が傷つくの見たくないんだ。」
「でも・・。」
「未来。」
「・・・。」

 高野くんは、頭いいから、もう受験の態勢に入ってるのかもしれない。だからと言って・・そんな興味ないなんて・・・。

 私は、頭の中が真っ白になって・・答えた。

「うん・・しばらく、私も忘れようと思う。本当に好きなのかどうか・・。」

 そう私は分からなくなってきてた。高野くんという人格が分からなくなってきてた。それが苦しいわけじゃないのに。ただ、皆と同じように好きな人がいるって言いたかったのかな・・。

「しっ・・椎名〜〜、助けてくれー!!」

 藤木くんが全力疾走で、私達の前にやって来て言った。

「鶴巻って、なんなんだよ、あいつぅ。はぁー。」「モテる男は辛いねぇ、藤木。まぁ、せいぜい頑張りな。行こう、未来。」
「あ・・うん。」
「ちょっと待ってば。お前ら。」

 そう言って、藤木くんが私の腕を掴んで離さない。

「鶴巻は、お前らのダチだろ? なんか言ってくれよー。」
「言ってもムダ、ムダ。」

 そう言って若葉ちゃんはお手上げポーズを見せる。

「確かにムダ・・だよね。」

 それでも私の腕にしがみつく藤木くん。

「藤木、いい加減、未来の腕を離しなさいよー。」
「イヤだ!助けてくれるって言うまで離さねぇ!!」

 二人が私の引っ張りあいをした。

「痛いってばぁー。」

「未来は渡さないもん、離しな!藤木ッ!」
「お前こそ離せよ、角田!!」

 その時、高野くんが、こっちに向かってやって来た。

 どくん・・どくん・・。

目が合わせられない。

「へー。藤木って、椎名の事好きなんだ?」

 そう言った。

私は、強く傷ついた。

「そうだもんなー。噂されたし、へー。」

泣きそうなくらいに辛かった。

 そう言って、高野くんは、また何処かへ消えていった。私は、その場に蹲った。

「未来?」
「わ・・私・・もう、ダメかもね・・。は・・初恋は失恋するって・・ほ・・ホントかもしれない。」

 どうして、こんなに傷つくんだろう。
あんなに好きだと思えた人なのに、どうして?

 高野くんの気持ちが分からない、高野くんをどうして好きになったかわからない。

 私は、もう人を好きになれるのか分からないくらいに、苦しかった。

 そして、次の朝・・・スキー教室、最終日。最終日に事件は起きたのだった。
33、スキー教室・2日目。

「うぅ〜っ 痛いっ!!!」

 魘されて目が覚めた。隣で寝てる若葉ちゃんの足が私の痛い足を蹴っ飛ばしたらしい。。

 腕時計を見ると、5時半。起床時刻は6時。早く起きてしまったみたいだ。メガネも掛けずに、そぉっと外へ出ようとする。

 すると、直子が誰かと話してるみたい。部屋の外を見ると、その姿が見えた。誰だっけ? メガネ掛ければ分かるんだろうけど・・んーー? あっ、あの髪型と背の高さ・・

 清水くんだ?

間違い無い。あの背の高さは清水くんだ。

 どうして??

 私は、直子が分からなくなってきてた。色んな人を好きって言ってて、どうして?

 朝食後、すぐに宿舎を出て、ゲレンデまでバスで行った。

 やっぱり足が痛くて、大瀬さんに

「椎名、上がってろ」

と、言われ、ロッジに戻ったら・・しもちゃんがいた。

「しもちゃん? どうしたの??」
「あははっ。俺も怪我したの。」

 そして他にも怪我した人や体調の悪い人は先に宿舎に帰ってていいと言われ、宿舎にしもちゃんや他の子も一緒に戻った。

 暗い部屋で一人きりになる。

「トントン」

「椎名、娯楽室で俺らトランプしてんだけど来いよ?」
「うん!」

と、しもちゃんに誘われ、他のクラスのコも交えて、ババ抜きをした。

「椎名ちゃんって、4組?」
「うん。」

一人の女の子が私に言う。

「鶴巻直子には気を付けなね?」
「えっ?」
「あのコの両親、離婚してるの。しかも一人っ子で、今、お母さんと暮らしてるのよ。だから、すごい男の子に執着あるみたいで、ね。」

 そーなんだ・・・。
だから、色んな人をキープみたくしたくなるのかな?

ウチは、お父さんもお母さんも、たまに喧嘩するけど仲良くしてるし・・でも、直子は、そういう光景がないんだね。。

「未来っ!」
「若葉ちゃん?」
「あんた平気なの??」
「うん、ちゃんと湿布してもらったし、なんとかね。」
「無理しないでね。」
「うん!」

 今、私は直子と比べたら幸せなのかもしれない。親もいて、兄弟もいて、大事な親友がいて、今は、いじめもなくて。

 そして、昨日と同じようにお風呂に行き、娯楽室で皆でおしゃべりをしてた。

 私がトイレに立ったら、若葉ちゃんも付き添ってくれて、近くのトイレにいく。

 出てから、歩くと・・・洋子さんが高野くんに写真を一緒に取ってと頼んでた。高野くんは何て答えたのか分からないけど、洋子さん並んで写真を取っていた。

 私は、呆然とした。カメラ持ってきてるけど・・洋子さんに先を越された感じがした。

「未来? カメラ取ってきてあげようか?」
「ううん、いい。」

 私は、切なくなった。

まるで気持ちまで無くしてしまったかのように、ショックが大きかった。もう、高野くんを好きになっても辛いだけ・・しかもスキー教室が終われば、私達は3年生になる。

 そしたら、恋愛なんかしてる場合じゃなくなるね。このまま諦めたほうが、叶えられなかった初恋として、傷つかなくてすむのかもしれない。

 空から舞い落ちる雪を見た。小さな白い羽根のように浮かんでた。
32、スキー教室・初日2

「では、皆さん、はじめまして。インストラクターの大瀬といいます。3日間で、全員滑れるようになりましょう!」

 ついに始まった。スキー教室。私と、さっちゃんは初心者のクラスで同じになった。

「じゃ、スキー板をつけてみましょう。」

 うにゃーーすべるぅ・・とか思いながら、練習が始まった。止まり方、転び方、で、スキーの基本となるボーゲンをおそるおそる始めた。

「はい、次、椎名っ。」
「は・・はいー。」
「ゆっくりでいいから、滑ってきなさい。」

 皆がやってるのを見て、こうだったけ?と首を傾げながら、下へ降りて行く。

「よし、その調子。」

と、大瀬さんが言った瞬間、加速した。

「きゃ・・きゃああ・・!!!」

 自分の意志とは、裏腹に滑っていってしまう。

「未来っ!! 危ないっ!!」

と、さっちゃんの声が聞こえた瞬間

ドッシーン!!

 何故か立て掛けてあったスキー板に衝突をした。その時に足がグキッ!と音がした気がした。

「痛い〜〜っ。」

「椎名? 平気か? 転び方全然できてなかったぞ?」

と、大瀬さんに注意されながら、支えてもらって立った時に・・

☆ズキン☆

「あ・・足痛い。」

 すごい痛かった。でも、もう少ししたら講習は終わるからと、そこから見学という形で見てた。

 でも歩くと痛くて、初日からこんなんじゃなぁっていう気持ちで宿舎に戻る。

 保健の先生に見てもらっても、

「腫れてるって程じゃないわよ?」

って、言われるし。

 そして、お風呂に入る時間になって、若葉ちゃんと明日香ちゃんは生理中だからと言って、後に入ることになった。

 直子と、さっちゃんと3人で入りに行く。

 そのすれ違い座間に藤木くんとしもちゃんと会う。

「椎名達、今から風呂なの?」

と、藤木くん。 すると、直子が・・・

「藤木くん、直子、キレイになってくるからね。湯上り美人だからさー。見てね!」

 相変わらず、ナルシストなのか? なんなのか分からないことを目を輝かせながら言ってる。

「うわぁぁぁ!! やめろぉ!!」

 二人の追いかけっこが始まった。

「未来、直子、置いて行こう。」
と、さっちゃんが言ったので、直子を置いて、後のことをしもちゃんに任せて、浴場に行く。

 体を洗ってる時に、やっぱり、さっき痛めた右足がひどく痛んだ。

 そして、夕食までの時間、みんなでおしゃべりをしてた。

「決めたわ! 私、今日、藤木くんに夜這いをかけにいくわっ!!」

 なーんて直子が言ってるとクラスの子が。

「直子さ、知らないんだ? 藤木の好きな人。」

 すると、私達は、そのコに耳を傾けた。

「若葉、知ってるでしょ? 理恵のこと。」
「あ・・うん。」

リエ?

「藤木ね、小学の時から理恵の事好きだったんだよ。でも、理恵が私立の中学に行ってから、どうなったか知らないけど。理恵も藤木の事好きだったし、直子には勝ち目ないよ?」

「私の藤木くんに女ですってー?? 私の方がいいってことを思い知らせてくれるわぁ!!」

 熱血漢あるなぁ。。直子は。

でも、びっくりだった。

そっか。。そうだよね。

藤木くんに好きな子いたんだ。。

 その日の夜、直子がフリルいーっぱいのネグリジェで、藤木くんのグループの部屋に行こうとしたところ、井出先生に見つかって、厳重に注意を受けてました。
 31、スキー教室・初日。
 直子は最強だった。私達はビックリ仰天するようなことを起こしたのがスキー教室だった。

「全員クラス毎に並べー」

 今日からスキー教室。

期待と不安に苛まれる心。

「未来、あんたは体が弱いんだから無理しないのよぉ。」

 そう、今日の出発前にお母さんに言われた。去年の臨海学校も、その5日くらい前に盲腸になったし・・お母さんやお父さんは心配してる。

「未来!!おはよー!」

 低血圧の私に響く甲高い声で直子が飛びついてきた。

「うぅ・・・おはよ・・」
「なぁに、朝から厳しい顔してンのよっ!今日から親も先生も公認のお泊まり大会じゃないよ〜」
「はぁ??」

 うにゅ。。ホント頭いたいや・・。

「未来、高野くんが来てないみたいだよ。」

ポソッと明日香ちゃんが教えてくれた。2組の先頭の代表委員を見てもいない。 どうして?

 もうすぐ出発式始まっちゃうよ。

「すいません、遅れました。」

と、汗だくで高野くんが現れた。どうしたんだろう?

 でも、話ができるわけじゃない。

そして、出発式の司会は、高野くんだった。汗を拭きながら話してる。

 そして、各クラスのバスに乗り込むことに。

「椎名、お前平気か? すっげー青褪めてるぞ?」

 と、藤木くんが言った。

「ん、大丈夫。」

「椎名。」

 久し振りに聞く声がした。振り返ると、高野くんだった。

「えっ? あ・・高野くん。」

 すごい久し振りで、どうしていいか分からなくて目が合わせられない。

「さっき、椎名の兄さんに会ってさ、お母さんに頼まれたらしくて、これ。」

 高野くんの手から渡されたのは、乳酸菌の入ったお薬。体調が悪くなったりすると、いつもお母さんが飲みなさいってくれたのだった。

「じゃ・・」
「高野くんっ!」
「なに?」
「あ・・ありがとう。」

 バスに乗りこみ、いざ、ベルデ武石。

途中のサービスエリアで、トイレ休憩があり、外の空気を吸う。

 少しずつ、気持ちが軽くなってきた。

すると、直子の姿が消えた。

「あいつならほっとこう」

 さっちゃんがそう言ったので、4人でバスに帰る。

 出発間際、

「うわぁぁぁぁ!!!」

 藤木くんが逃げるようにバスに乗り込んできた。
「藤木、もっと落ち付きなさい。」

 井出先生が言う。

「椎名、鶴巻をなんとかしてくれよぉ!!」
「え?」

「やん!藤木くんたら恥ずかしがっちゃって!」

 そう言いながら、直子がバスに乗ってきた。

「どうしたの?」
「ツーショット写真ありがとうね!ふ・じ・き・く・ん!」


 あんぐり。。

 
 直子は最強だ。

そしてベルデ武石に着くと、荷物の整理などして、いざスキー場へ。

 白銀の世界が目の前に広がった。眩しくて、眩しくて。キラキラ輝く世界。

これからの3泊4日の生活で、私が、変わってくとは気付かないまま・・・私は、その1歩を踏み出してた。
30、雨のち晴れ。

「今日のHRは、来月末にあるスキー教室の部屋決めをします。なるべく4〜5人のグループを作って下さい。」

 もう季節は冬。あっという間に冬が来て、3年生が受験シーズンを迎えてるころ、2年生はスキー教室がある。

 もちろんグループ決めの時は、すぐに若葉ちゃん、明日香ちゃん、さっちゃんで固まった。

すると・・・直子がやってきた。

「ねぇ、私も入れてくれないかなぁ?」

 私達は顔を見合わせた。でも、断ったら怖そうなので・・
「いいよ。」
と、明日香ちゃんは言った。

「やっぴぃ!!チョーうれぴぃ!」

 私達は、まだ直子に振りまわされてる。

「ねぇ、しもちゃん。しもちゃんは上級者? 初心者?」
「ん? スキー教室の??」

 放課後、図書委員の仕事で、しもちゃんとおしゃべり。

「俺ねェ。初心者なのよ。。」
「私もー。」
「ははっ。やっぱりなぁ。椎名、運動音痴だもんな?」
「むぅー。しもちゃんだって、そうじゃん。」
「はい、そうですよぉ。でも、藤木は超上手いらしいぜ。小学校の時、毎年2、3回は行くって言ってたし。」
「そうなんだ。」

 しばらく無言が続いた。

「でも、椎名。このスキー教室終わったら、マジで受験が押し寄せてくるらしいよ。」
「うん・・・。」
「俺は商業やりたいから、行きたい高校は、ほぼ決まってるけど、椎名は?」
「私? 私は、どこに行きたいんだろう・・」

 もうすぐ3年生。受験と卒業が待ち構えてる。私は・・いったい何したいんだろう? 何を思えばいいんだろう?

「あ。雨があがったみたいだな。」

 さっきまで降ってた雨が、空から眩しいくらいに太陽が照らしてた。

 私の気持ちも、いつかこうなることを信じていたい。ずっとずっと。
 例え、この初恋がダメでも、いつか大人になる頃には、きっと素敵な恋をして、素敵な結婚をしてみたい。

「おまたせっ!!」

 藤木くんが、私としもちゃんを迎えに来た。

「ミーティング早めに終わったんだ。帰ろうぜぇ!」
「はーい!」

 私としもちゃんは、片付け始めて、それで鍵を締めた。

そうすると・・若葉ちゃんも来た。

「私も一緒に帰るー!!」

 そして4人で帰ってく。夕暮れのオレンジが気持ちいい。柔らかく私を包み込み、寒い空気よりも温かく感じてた。

 そして公園に行く。4人で話してたら、ホントにあっという間に時間が過ぎてた。
家に帰ったのが18時。

「はっくしゅん!!」
「未来、風邪ひいたの?」
「んー。。」

 翌日、頭がボォ―ッとしてたの。ヤバイなぁ。。

 ホントに体調がヤバくて保健室で寝てた。そうして、先生に早退しなさいって言われて、教室に戻ってくと・・・

「椎名、大丈夫か?」
「あ・・藤木くん。」
 
 カバンと、コートを持って、いそいそと教室を出て先生に早退しますと伝えた。

「途中まで、持っていくよ。」

と、私のバックを持ってくれた。

「ありがとう・・」

 その時。

「あっ!!!」

 い・・嫌な声を聞いてしまった気がした。

「未来、早退するの??」

 走り寄ってきたのは直子だった。
「うん・・。」
「大丈夫?? あら、やだ。彼氏にバック持ってもらっていいねぇ!」
「だから・・彼氏じゃないってば!」
「そうだよ、俺らは友達で・・」

「クスッ」

 直子が微笑んだ。

「優しいんだね、藤木くん。」
「そんなことねぇよ。」
「直子ねぇ、藤木くんの、そんなトコだぁいすきっ!!」
「い゛っ!?」

 私と、藤木くんは素っ頓狂な声を出した。

「お願いだからさぁ、未来も、応援してよね。」
「お・・応援ってなんの?」
「私と藤木くんがラブラブになるのっ!!」
「じゃあ、また明日ねー」

 直子は、藤木くんに投げキスをして、軽やかにそして可愛らしくクルクル周りながら走って去った。

 私は・・明日が怖くなった。
29、私の予感。

 そして、合唱コンクールは、結果的に4位になり、中学生活の折り返し地点まで来た。そろそろ受験に向けて勉強をしだす人、部活に燃える人、それぞれだった。

 そして、今、私は若葉ちゃんの陸上の大会の応援を見終わったあとでした。

 時岡くんとも仲良くなったし、もうイジメも無いし・・・残された私の思いは・・・

高野くん。

 あれから全然話してない。廊下ですれ違っても、何もできない。高野くんが、ずっと遠い人に見え始めた。

 私は、予感していた。

また、イヤなことが起こるって。

「椎名さぁーん。」

 若葉ちゃんの陸上大会の帰り道、若葉ちゃんは、まだ部活があるらしく私一人で帰って行ったら、後ろから私を呼ぶ声がした。

 鶴巻直子、その人だった。

 いつの間にか、私と若葉ちゃんと、明日香ちゃんとさっちゃんの4人の仲の輪に入ってくるようになった人。

「あ、鶴巻さん。」
「椎名さんも角田さん達の大会見てたの?」
「うん。」
「角田さん、すごいよねぇ。女子400Mリレーのアンカーで、ぶっちぎりだったもんね。」
「鶴巻さんは、何で?」
「私? 私は好きな人を見に来たの。」
「好きな人・・?」
「野暮なこと聞かないでよぉー、秘密ね。短距離の金原寛之っているでしょ?」

 金原寛之・・・時岡くんと同じクラスの人だ。

「うん。」
「その人ーvv」
「あっそ。。」
「あっそって、ひどぉーい。椎名さんは? 今日は、彼氏と一緒じゃないんだね?」
「だから、藤木くんは彼氏じゃないってばぁ!」
「そうなの?」
「そうなの!」
「じゃ、好きになってもいい?」
「へ??」
「私さー、金原も好きだけど、藤木も狙ってたんだよねー。」
「はっ??」
「応援してくれる??」
「ん???」
「ありがとー!! これから、未来ちゃんって呼ぶねー! 私の事も、直子でいいから!!」

 そう言って、鮮やかに走って消えていった鶴巻さん。

 鶴巻 直子の出現によって、私の周りが変わるなんて、たぶん予想は、ついていたけど・・・でも、あんなに凄いことが起きるなんて思ってもみなかった。

 翌日、朝礼で若葉ちゃん達は表彰されていた。きらきら眩しい若葉ちゃん。それを、代表委員の目でにらむ洋子さんの姿を見たけど、そんなに気にしなかった。

 後期が始まっていた。高野くんは、相変わらず代表委員を務めていて、ついに洋子さんも代表委員になった。

 しかも、高野くんは、副委員長になった。

変わらず、多忙な生活をしてる。

 私は、引き続き、しもちゃんと図書委員をしてた。本の整理をしながら、中庭でストレッチをする藤木くんにガッツしたり、中庭で走ってる若葉ちゃんを応援してた。


 そんな平凡な日のさなか、明日香ちゃんが私達に言った。

「私、もう清水を諦める!」

 皆、驚いた。一番、驚いたのは、親友であり、ライバルであった、さっちゃんだった。

 清水くんが、荒れてきたのだ。前まであった、ほのぼの雰囲気から一転、不良っぽいスタイルになった。

 他のクラスでも有名になり・・でも。

「ワイルドな人って、直子は好きだなぁ・・。」

 そう鶴巻 直子だけは違っていた。

「直子は、清水くんみたいな人が好き!」

 私達は、唖然。

直子は、とんでもないミーハー女だったのだ!!
28、私が守る!

 若葉ちゃんを支えながら、校舎に向かう。若葉ちゃんは震えてる。

 校舎に近づいた時・・

「角田ー! 椎名ー! 頑張れよぉ!!!」
「角田、泣くんじゃないぞ!」
「椎名、角田を守ってやれよ!」

 私は、声でピンときた。しもちゃんと、しもちゃんのクラスの友達のすーちゃんだって。

 それから、私達は教室には行かなかった。北の女子トイレに行った。

 若葉ちゃんは、なかなか顔をあげなかった。ずっと私の胸でシクシク泣いていた。

 私は思ったんだ。若葉ちゃんを守るって。これから、どんなことが起きても、若葉ちゃんを守りたいって。

 初めて授業をサボった。

先生にも、洋子さんにも、他のクラスのみんなにも会わせる顔がなかった。

 でも、今、この状況はソプラノのリーダーである洋子さんにとって、都合の悪い状況になってると思った。

「未来ぃ・・ずっと、一緒にいてね?」
「えっ・・?」
「未来、大人になっても私と友達でいてね。」
「・・うん。」

 私は、分からなかった。大人・・・いつになったら大人になるんだろう。

 大人になるころ・・・私は、若葉ちゃんと友達でいれるかも不安だった。でも、いようと思った。

私は、若葉ちゃんを守るって。


「こんなトコにいた!!」

 そう、明日香ちゃんと、さっちゃんがやってきた。

「もう、何やってるのよ? 井出先生、ビックリしてたよ?」
「そうそう。ビックリしてたよ。『真面目な角田さんと、椎名さんがどうしていないの?』って。」
「そうなんだ・・。」
「ホラ、もう放課後の練習終わっちゃったし、教室に戻ろう?」

「いやだ・・。」

 そう、若葉ちゃんは答えた。

「じゃ、未来だけでも戻ろう。そして、若葉の分もバックとコート取りに行こう。」

「やだ。未来を連れてかないで!」

 そう、若葉ちゃんは私の腕を引っ張った。

「分かったよ、未来と若葉の分持ってくるよ。」

 そう言って、すぐに二人は私達のバックとコートを持ってきてくれた。

 そのまま、下駄箱に向かった。

すると・・・

「椎名さーん、角田さーん!!!」

と、洋子さんの取り巻きの一部が来た。

「どこにいたの? 心配したよ?」
「洋子のことでしょー? 私らもウンザリしてたんだー。」
「一緒に頑張ろうよ!」

 私と若葉ちゃんはキョトンとした。
 
え? なんで?

って想いが駆け巡った。


 次の日から、私や若葉ちゃんは洋子さんと極力、会わないようにした。練習でも、話しは聞くけど、発言をしない。そんな感じに。

 クラスの皆が気付いた。

私と、若葉ちゃんが洋子さんに集中攻撃をされてるってことを。

 すると・・・クラスのほとんどの人は、洋子さんを「いやな人間」と見るようになっていった。

「角田や椎名をいじめるヤツだもんな、コイツ。」

などと、言う男のコもいた。

結果的に、洋子さん自体がクラスの人からいやな目で見られ出して・・・私達に何か言おうと来ても、途中でクラスの人が、

「また、いびるの?」

とか、野次を飛ばすようになって、だんだん・・・洋子さんは孤立化していった。

まだ、彼女の周りには取り巻きがいたけど、前ほどの人数では、なくなっていって・・・


そうして、イジメが消えていった。
27、恐怖のセミナーハウス

 そして、次の日が来た。私の体調は悪化したままだった。その日の午前中、音楽の授業で先生が、

「ソプラノ、声が小さい!! アルトに負けてるよ? そんなんじゃハーモニーにならない! もっと声出して!」

 そう言われても、私は風邪で、更に声が小さくなってしまってる。どうしようもない。

 洋子さんの取り巻きのふぅちゃんだって、声が小さい方なのに、、、それなのに、洋子さんは私や若葉ちゃんを見てピリピリしていた。

 それは、セミナーハウスでの練習でも続いた。

担任の井出先生にも、

「ソプラノ、しっかりしなさい!」

と、言われたからだ。

 そうすると、ピリピリの極限を越したかのように、洋子さんが私と若葉ちゃんの目の前に現れた。

「ちょっと! 椎名さんに、角田さん! もっと大きな声で歌ってよ。」

 言い掛かりだ。 どうして、そんなに私達に集中攻撃をするの? どうして?

「歌ってるよぉ・・ゴホッ ゴホッ・・」

 私は、その返事でさえも咳き込む状態だった。

「大丈夫?未来。 洋子、私達ちゃんと歌ってるよ。」
「全然ッ 聞こえないんだけど?」

 皮肉っぽく、洋子さんは私達を睨んでいる。

「私は・・風邪ひいているから・・」
「でも、歌ってるってば!」

 私達が反発すると・・・

「とにかく、もっと声を出して!」

 私と若葉ちゃんは思ったんだ。どんなに反発しても、どんなに逃げても、洋子さんは私達を集中攻撃するって。無視したわけでもない。次の言葉が出せなかっただけなのに・・・

「わかんないヤツらには・・・」

 そう言って、洋子さんは手を挙げた。

瞬間的に凍りついた。

―叩かれる コ・ワ・イ!

 私達は目を瞑った。


「じゃあ全体練習しましょう。」

 そう先生の声がして目を開けた。

救われた・・・。でも、涙が出そうだった。

 震えながら、若葉ちゃんを見ると震えていた。同じ気持ちだったんだ。 私は、若葉ちゃんの手をギュウッと握った。

 苦しくって、その後の練習が、どうだったのか覚えてない。一瞬の記憶喪失のように消えてしまったかのようだった。

「じゃ、教室に戻って終学活をしてから、また練習です。」

 先生の指示のあと、クラスのみんなで教室に戻っていく。私達は、一番最後だった。教室に向かおうと歩き出したら、若葉ちゃんが私の胸に飛び込んできた。

「わっ 若葉ちゃん?」
「うわぁぁぁぁん!!!」

 セミナーハウスの横の階段で隠れて泣き始めた。私も堪えてた涙があふれてきた。

 校庭がオレンジに染まり、私達の影を大きくしていた。影は大きいのに、心は、どこにも行けないかのように小さく蹲ってしまっている。ただ、涙が正直に流れた。

 私はポケットのハンカチを取り出し、自分の涙を吹いた。

そして、ゆっくり若葉ちゃんを支えながら、校舎に向かった。
26、合唱コンクールの季節。

 運動会が終わると中間テストがあって、その後にすぐ合唱コンクールがやって来る。課題曲は「若い翼」に決まった。自由曲は、さすがに皆、悩んでいた。

 私は、大好きな曲「遠い日の歌」が良かった。デモ、一年生の課題曲になるらしく、没。

 洋子さんは張り切っていた。歌が好きらしく、積極的にソプラノのリーダーになっていた。私は、音楽の先生に、

「椎名さんの声はソプラノね。」

と、言われた。

 洋子リーダーの指図を受けなくてはならない。。若葉ちゃんもソプラノで、さっちゃん、明日香ちゃんはアルトになった。鶴巻さんもアルト。まだ、さっちゃんと明日香ちゃんは喧嘩が続いていた。

「あーー、あーーー、あーーーー。」

んーー。私は声が小さいほうだ。どうしても大きな声は出ない。

 また音楽室に来て、若葉ちゃんと練習していた。洋子さんに、

「椎名さんと角田さんは声が小さいから大きな声になるように練習して!」

と、言ったのだ。

だから、必死に私は練習していた。

「未来、またあの曲を歌おうか?」
「うん♪」

 私達は、「そのままの君で」を歌った。

でも、その辺りから急に私の体調がおかしくなってきたのだった。

「気持ち悪いぃ・・・」

それから数日後、自由曲は「アムール河」に決まった。でも、私の体調は悪化していた。

「未来、熱計ってみよっか?」
「うん。。」

 朝、私は吐き気と咳に悩まされた。熱は、平熱が36.3℃な私。でも、今日は、39℃近くあったのだ。学校を休んだ。

 気持ち悪い・・。でも去年の夏。私は、盲腸になった。その時の辛さと比べたらへっちゃらだけど。

 ずっと横になってた。

夕方くらいに若葉ちゃんから電話が掛かってきたらしいのだけど、私は寝ていた。

すごく辛かった。

今までの辛さとか、苦しさとか全部出てるような気がしてた。

次の日も休んだ。

その次の日、熱は下がったので、登校する。でも咳は止まらなかった。

「おはよう未来!!平気?」
「あ・・ゴホゴホッ。おはよぉ若葉ちゃ・・ゴホッ」
「平気なの?? 無理しないほうがいいよぉー?」
「ん・・ケホケホッ・・。」

確かに無理してた。

 休んでいた分、練習が遅れてるんだもん。だから必死だった。

「椎名?大丈夫?」
「藤木くん・・平気だよ?」
「無理しても良くないからな?」
「うん。」

 ホントは、すごく、しんどかった。でも、授業から遅れたくないし。熱が下がってるのに、休みたくないと思ったんだ。でも、そのことが返って、自分を苦しめてたなんて、あとから知った。

「明日の練習はセミナーハウスでやります!」

 そう、帰りの学活で言われた。

セミナーハウスかぁ。

 まさか、そこで、とんでもない事件が起きるなんて、その時の私には知る由もありませんした。
25、運動会の思い。

 そして、とうとう運動会が始まった。私は、ずっと専念してた。まるで何も考えないかのように受付の仕事をこなして、2年女子のダンスを終えて戻ると、お湯が足りないとのことで給湯室に走った。

 すると、その途中で・・・

思いがけないことに高野くんが目の前から来たんだ。

 そのまま、何も話さずに、目も合わさずに通りすぎようとした高野くんに。

「高野くんっ!」

 私は大きな声を出した。

「なに?」
「私・・私。」

 バカバカ。何を言おうとしたんだ私、呼びとめちゃって・・・。

「私、負けないから。洋子さんのイジメに負けないから、だから・・・」

 でも。

「藤木と付き合ってるんだって? よかったな。じゃあ」
「ち・・ちがうっ!!」

 そんな私の声にも動じないで、高野くんはそのまま1歩いっぽ歩き出した。

 チガウのに・・私は、あなたが好きなだけなのよ。。

 もう、どうすることもできないのかな・・・


 大縄跳びも本番でも怖かった。クラス対抗リレー、私は足が遅いからって、早めになってた。

 藤木くんが30番で走ってた。2組の30番が高野くんだったんだ。

 二人とも、お互いを意識しながら走ってた。どうして?

 私は、苦しかった。

結局、藤木くんが勝ったんだけど・・・

 でも総合的には3組が優勝した。

そして、片付け。

 図書委員は、受け付け場所など片付けてた。野球部は、テントを片付けてた。

「椎名さん!!」

 あ、藤木くんに告白したいって言ってた女のコだ。

「なに?」
「あのさぁ、藤木くんを呼んでもらえるかな?」
「・・・うん。」

 私は、躊躇わずに、藤木くんの肩を叩いて、彼女のとこに連れていった。

 二人が中庭に行ったのを見届けて、私は仕事に戻った。

「椎名。」
「しもちゃん、ごめんごめん。」
「さっきのあのコ、藤木に告白したいって言ったんでしょ?」
「え?なんで分かったの?」
「ダメだよ、椎名。そういうのって、自分が辛くなるよ。苦しい時にだれかの幸せの手伝いって。」

その時。

 さっきのコが泣き出して、校門を出ていった。

私と、しもちゃんは顔を見合わせた。

 中庭から藤木くんが出てくる。

「椎名、ちょっと。」

そう言って、彼女と話してただろう中庭に今度は私と藤木くんが来た。

「こぉのーバカやロー!!!」

 と、いきなし言われた。

「バカとは何よぉ!!」
「お前さ、素直になれ。俺は、どこにも行かないよ。もちろん、これからもお前とは友達だ。でも、人の幸せを望む前に、お前が幸せになれよな」

 そう言って、若葉ちゃんが迎えにきてくれて一緒に帰った。

「未来、あのさ・・」
「なに?」
「運動会終わったら、すぐ合唱コンクールじゃない。」
「うん。」
「その前に私の陸上の秋の大会があるんだー。」
「へぇぇ、すごいねー。」
「未来、応援にきてくれないかな?」
「あ、うん、いいよー。」
「ほんと??」
「うん^^」
「時岡も出るからさ。見てあげてね!でも惚れちゃダメだよ」
「分かってるって」

 私は、このまま、高野くんに誤解されたままになるのかな・・

 そういう気持ちとは裏腹に笑顔でいられる自分が怖くなってった。
24、恋? 友情?

 まだボォーッとしてる。 藤木くんに抱きしめられた。。
 なんなんだ? この気持ち。
 よくわかんない。。
恋なのか?
友情なのか?

 でも、おかしい。

前ほど、高野くんのことを考えられなくなってる。前は、少しでも近くにいれば・・・話しかけてもらったりできたのに・・今じゃ、距離が空いてしまったかのように、先を行く人に見えてしまう。

 私には・・・恋愛って向いてないのかな。。

 別に彼氏が欲しいわけじゃない。
 別に寂しいわけじゃない。

なんで好きなんだろう・・・。

 そして、ついにとうとう明日が運動会になった。明日香ちゃんと、さっちゃんは相変わらず、喧嘩したまま。。 明日香ちゃんは、何故か、鶴巻さんって子と仲良くし始めて・・・さっちゃんは、私と若葉ちゃんと行動するようになった。

「椎名さん、ちょっといいかな?」

 洋子さんの取り巻きじゃない、女の子二人が私を呼び出した。

 そして、恐る恐る廊下に出ると・・・

「椎名さんって、藤木と付き合ってるの?」
「えぇっ!?」
「いつも仲良くしてるし、、この前、聞いたんだけど運動会の予行の時に抱き合ってたんだって?」
「ち・・チガウよ!! 抱き合ってなんかないよ!」
「じゃ、付き合ってるの?」
「付き合ってもないってば。」
「じゃ、私・・明日、藤木くんに告白していい?」
「え・・・っ?」
「ウチの学校さ、運動会が終わったあと、告白したらOKもらえる確率多いって伝統じゃん? だからさ。」

 この子・・藤木くんが好きなんだ・・。
そうだよね。
そういう子がいても、おかしくないよね・・。

「椎名さんがOKだして欲しいんだ。」

 藤木くん・・・。
大切な友達。
私を守ってくれるって言った人。
でも、もう迷惑かけられないよ・・・。

「うん、いいよ。頑張ってね!」

 私は、そう言って笑顔になった。

これでいいんだ。
もう、誰も巻き込んじゃダメだよ。。

 私は、高野くんが好きなんだ。
それを変えてしまいそうになるのが怖い。
藤木くんは、いい人だよ。
でも、もう甘えちゃダメだね・・・。

 私は、そう一人で決心した。

 そうして、放課後。ひたすら、大縄跳びの練習に明け暮れた。

 洋子さんの睨む顔、そして、明日香ちゃんと、さっちゃんの間にある気まずい雰囲気、そして、藤木くんを好きだと私に打ち明けた子。

みんな、それぞれの道を歩いていかなきゃならないんだね。。

 私は、どうなんだろう。。

男と女じゃ、友情は生まれないのかな?
恋愛しか生まれないのかな?

 私は、高野くんと友達なのかな?

そうして、私は、夜眠りについた。

 自分で作ったラジオ。小5の時、科学クラブで作ったポケットサイズでAMしか聴けないラジオ。

 私は、イヤフォンをつけた。

「今、最新の音楽チャートをお送りしてるこの番組。次のコーナーは一押し曲をご紹介します。」

 たまに聴く、このラジオ番組。

私は、部屋の電気を消して、よく聴く。

誰がスキとか、キライとかじゃなく、音楽を聴くと癒されるんだ。

「それでわ、@*#$%&でIN MY DREAM」

 誰の曲だろう?

すごい浮遊感漂う。
その曲を聴きながら、私は目を閉じた。。
 その曲との出逢いが、これからの人生を変えるとも知らずに。
23、体内分裂?

「もぉ、幸子なんて知らないっ!! いつまでも、グチグチしてなっ!」
「こっちだって明日香なんて知らないからっ!!」

 放課後の教室に響き渡った、明日香ちゃんとさっちゃんの声。

さっちゃんは自分のバックを背負って、教室を飛び出た。

「幸子っ!!」

若葉ちゃんは、さっちゃんの後を追った。

 さっきから二人が言い争いをしていた。でも、私と若葉ちゃんは口出しできなかったんだ。

「明日香ちゃん・・」

 私は、明日香ちゃんに近づく。

「未来、ごめん。。。」
「ううん、気にしないで。」
「どうして、同じ人なんか好きになっちゃったんだろうね。私、幸子に好きになって、すぐ教えたんだよね。。親友だから、でも、それから少しして、幸子に「私もあの人が好き」って言われた時・・カッときた。」
「明日香ちゃん・・」

 辛いよね・・分かるよ、私。
 私も、なんで洋子さんと好きな人が同じなんだろう・・・。

 私は、明日香ちゃんと一緒に帰った。
でも、何を声掛けていいのか分からなかった。

「好きな人が、いるとさぁ・・・なんていうの、ホントは、あぁしたい、こぅしたいってあるのに・・実際に出来なかったら苦しいよね。」
「うん、、明日香ちゃん。」
「なんか体内で自分が分裂してる気分になる。強気な私と、弱気な私。どっちも私なのに・・なんでだろうね。」
「明日香ちゃん・・・」

 心は思ってることどうりには動かせない。簡単じゃない。苦しい。

 私も、明日香ちゃんも悩んでる。。ずっと悩んでいる。

 ホントは私だって泣きそうになるけど、我慢してる。強くなりたいから。でも・・どうしても心が痛くて・・・

 そして・・運動会の予行の日になった。
私は、図書委員の仕事として、受付係を任された。若葉ちゃんは、陸上部だから、もちろん記録係で。

 私の仕事は、来賓の方々を席まで案内するという係で、今日は予行なので、うちの学校の先生方を相手に練習をしました。お茶を出すのも、本番どうりにやった。
 給湯室までポットにお湯を入れに行ったりしなきゃいけないので、大変だった。

 給湯室でポットにお湯を入れて、戻ろうとした時に、洋子さんが目の前に現れた。

「椎名さん、練習あるって言ったでしょ?ダンスの。」
「えっ?」
「聞いてなかったの? 朝。」
「朝は、もう準備していたから、私、知らないよ。」
「ふざけるなよっ!!」

 私の肩をドンと押して、私は地面に尻餅をつく形でグラウンドに座りこんだ。と、一緒にポットのお湯が少し零れて、私の足に掛かった。

「熱っ!!」

 その様子を見た洋子さんが、私の手からポットを奪い、少しお湯を出して・・・

「これ、熱湯なんじゃなぁい?」

 私は、ゴクン・・・。
唾を飲みこんだ。

 洋子さんは、周りを確認して、そして笑った。

「コケて、ポットのお湯が零れて、ヤケドしました。 いい理由になるわね?」

 私は、怖くて・・・後ずさりをした。

 洋子さんはポットの栓を「開」にして、私の顔の方に傾けようとした。

「さよなら、あんたのその白い顔。」

 もうダメだぁって思って目を瞑った。
「椎名っ!!!」

 藤木くんの声がして私達に近づいた。

「長谷部、お前・・・そこまで、なんでするっ?? 同じ女だろぉ? どうして??」
「・・・。」

 洋子さんは、藤木くんにポットを押し付け、逃げていった。

「椎名、平気??」
「しもちゃん・・・」

 しもちゃんも近づいてきた。

「椎名? 何もされなかったか?」
「大丈夫・・。」

 藤木くんは私の腕を引っ張って、私を立ち上がらせた。

「良かった、何もされなくて・・・椎名の顔にヤケドなんて・・」

 藤木くんは私をギュッと抱き締めた。

「ちょっと・・藤木くん??」
「ホント良かった・・」

 私は心が分裂した気分だった。

高野くんが好きなのに・・なんで・・今、私は、藤木くんに抱き締められてるんだろう・・・。

 苦しいね、、

私は、どうしたらいいんだろう。 
 らぶが、お届けしてる「じゅにあ はいすくーる めもりーず」、時々、感想メールとかが届いてます^^ そのお礼も兼ねて今回は、番外編として書こうと思います。

 今、未来ちゃんがものすごく悩んでます、これは本当に私が悩んだこと。
 お兄ちゃん同士の問題なのに、なんで妹までって思ったんだ。ホント、高野くんが言うように「逆恨み」だよね。

 洋子さんとは、んー、もう全然会ってませんね。私自身が、同窓会とか呼ばれないからかもしれないけどね。

 あと、名脇役(?)・しもちゃん。結構、この後、注目かもしれないなぁ(爆)。

 実は、このしもちゃんは今、私の仕事通いのバスでたまぁに一緒になります。向こうは途中のバス停で降りちゃうけどね。

「中2の時、色々あったよねー。」

て、いつも言ってます、あの人。。ちなみに「しもちゃん」は、ホントのあだ名。でも、ちゃんと仮名だから^^;でも、しもちゃん、若葉ちゃんには「しもしも」って呼ばれてたなぁ。。(爆)

 これから登場してくる人物を一人、紹介しておきます。これからの話で、ちょっと要注意人物です。

鶴巻 直子(つるまき・なおこ)です。

 今の話の時点で、一応、出てきてるんです。「洋子の取り巻き」の一味として。
でも、洋子さんとの問題が、あることで終止符がつけることが出来るんだけど・・その後に、登場してくるので・・洋子さんより厄介でした。
 時岡くんとか、清水くんまで巻き込みましたからね、この直子の事件で。しかも、直子の八方美人振りは面白く書いてしまったので、少しは手直ししよっかなって思います。

例)
「直子ねぇ、藤木くんの、そんなトコだぁいすきっ!!」
「い゛っ!?」

 私と、藤木くんは素っ頓狂な声を出した。

「お願いだからさぁ、未来も、応援してよね。」
「お・・応援ってなんの?」
「私と藤木くんがラブラブになるのっ!!」
「じゃあ、また明日ねー」

 直子は、藤木くんに投げキスをして、軽やかにそして可愛らしくクルクル周りながら走って去った。

 ↑のようなシーンがあります。

最強です(汗)。かなり(汗)。

 そういう傷害を乗り越えて、未来は、最後にどうなるか? って感じですね。結末は分かってると思うけど・・ちゃんと、それだけでは終わりません。卒業後にあった同窓会のシーンも書くつもりです!!

 その同窓会で、あるカップルが誕生するのです!! もちろん未来と高野くんでは、ありません。あしからず。。 誰と誰が、くっつくのかお楽しみに^^ ちなみに、それぞれ(未来、若葉、明日香、幸子、洋子、直子)が好きな人と、くっついたんじゃないんだよねー。結構、ビックリしちゃうかも。。 ここまでしか言えないけど、すごい事を書いてしまったねー。
 でも、そのカップルは半年くらいで別れちゃったんだけどね。。^^;

 でわ、これからも引き続き「じゅにあ はいすくーる めもりーず」をヨロシクお願いします^^
22、男女の友情。

 私の頭の中に、洋子さんの泣き顔と、洋子さんが高野くんの胸で泣くシーンが焼きついていた。

私・・ダメなのかな?

 洋子さんにも償えない、高野くんにも、もう合わす顔がない・・・こんなんじゃ最低だぁ。

 生まれて来なきゃ良かったのかな。。

 人を好きになる感情は誰が生み出したんだろう。
 切なくて、苦しくて、悲しい。

私は、ボォーッと、放課後、図書室の窓辺に立っていた。

「椎名っ!」

 振り向くと、藤木くんだった。

「おいおい、どうしたよ? そんな浮かない顔しててよ。」
「部活は?」
「部活なぁ・・サボってきた!」
「ダメだよぉ。一軍に入りたいんでしょ?」
「でも、椎名が、寂しそうな顔して、窓辺にいたからさ。」
「気にしなくていいよ。そんなことより、部活に戻りなよ。」

 私は、ソッポを向いた。

「お前さ、現実から逃げるなよな。今、お前の目の前で起きてるのは現実だよ。夢じゃない。それを振り払うことなんてできなんだよ?」
「藤木くん・・。」
「友達じゃないか、俺達。友達だから何でも話して欲しい。」
「藤木くん・・。」
「話してくれるか?」
「うん・・。」

 私は、初めて男のコに好きな人・高野くんのこと、そして、今日の洋子さんのことを話しました。

「高野に直接言われたわけじゃないんだろ?「嫌い」とか「付き合えない」とか。」
「うん・・でも・・。」
「デモじゃない。まだ諦めちゃダメだ。椎名の兄貴は、兄貴。椎名未来は、椎名未来だろ?」
「藤木くん・・。」
「お前は、自分が思ってるより純粋なヤツだよ?それは俺達がよくわかってる。だから、たまには弱気なとこも見せたっていいんだよ。」
「うん・・。」

 藤木くんって不思議だね。
 初めてだよ、こんなに仲良く話せる男のコ。
 もしかしたら、私・・・高野くんの事好きになってなかったら・・きっと、藤木くんの事好きになってたかもしれないな。

「ありがとう。」
「いえいえ。」

 私は、図書室を閉めてる時に、藤木くんにそう言った。

「じゃ、俺、部活に戻るわ。」
「うん。じゃ、また明日ね。」

 私は手を振った。すると、その手を藤木くんは握った。

「え? 藤木くん?」
「椎名、ずっと俺達、友達だからな。」

 そう言って走り出した藤木くん。

 握られた手が痛かった。私は、呆然としてた。振り返って、職員室に向かおうとしたら・・・

 そこには高野くんの姿があった。

 もしかして・・今の見られてた?

 高野くんは、私の前を通って、目も合わさず、通りすぎていった。

 悲しかった。
 苦しかった。
 切なかった。

私は・・ただ、好きなだけなのに・・・
 どうしたら、あなたに伝えられるのだろう。

 でも、今は、言えない。
 あなたにも分かってもらいたいから・・・

 私は、涙を堪えて、職員室に行って、図書室の鍵を返却して、学校を出た。

 グラウンドに、陸上部がいた。若葉ちゃんが、時岡くんと話してて笑ってる。

 洋子さんのバレーボール部は、グラウンドを走ってた。
 副部長の洋子さんは先頭で走ってた。私と目が合うと睨んでいた。

  ずっと、下ばかり向いて歩いてました。
自分の足しか見えてなくて・・。

 今の私は、こんなにも無力です。

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