13、若葉の好きな人。

 その翌週、私は、若葉ちゃんの陸上部が中庭で練習するのを自分の部活のパソコン部の窓から覗いた。

 若葉ちゃんが、柔軟体操してた時に私と視線がぶつかり、
「そうだ!」
と、何かに気付いた若葉ちゃんは私に手招きをする。

 部室の窓を開けて、

「どしたの?」
「例のあれ、教えるよ!」

 あ・・好きな人のことか。そして、若葉ちゃんが、そっと窓辺に来て私に耳打ちをする。

「そこにいるのが時岡理。」

 時岡? 

あ!!!思い出した!!!
 
 去年の運動会で、この人・・学校の記録を塗り替えちゃった長距離ランナーだ!!

 なるほど。

 でも、いいなぁ。好きな人と、同じ部活で。

 高野くんは、同じパソコン部なんだけど・・代表委員会で、委員会が忙しいから、たまにしか顔を出さないし・・・。つまんないよー。。

「椎名!」
「藤木くん。」

 そのまま窓辺にいると、廊下から藤木くんの声がした。

部室を出て、藤木くんのトコに行くと・・

「何?」
「椎名、ちょっと出てこれるか?」
「うん、いいけど。」

 部室に戻って、自分のバックを持って顧問の白ちゃん(白井先生)に断って、部室を出た。

「橋本に聞いたんだけど。この前の鼻血、長谷部が集中攻撃したんだって?」

 中庭に来て藤木くんは話し出す。

「え?」
「俺、長谷部と小学校同じだけどさ、アイツ、弱いやつ見ると、いじめるんだよ。」
「いじめじゃないよ。たまたまだよ、きっと。私、とろいし・・・」
「でもな、椎名。角田は・・・」
「角田って、若葉ちゃんがどうしたの?」
「角田も同じ小学校なんだ。」
「うん。」
「角田・・・小学校の時、長谷部にいじめられてたんだ。」

!!

「だから・・・角田は辛いと思う。椎名が、今、標的になってるの。」
「どうして? どうして嘘つくの?」
「嘘じゃないよ。」
「若葉ちゃんの口から聞かないと信じないもん!」

 そう言って私は、校門に向かって走り出した。

ドンッ!

 人にぶつかった。

「ご・・ごめんなさい。」
謝ると・・・
「良い度胸してんじゃないの。」

 顔をあげると、長谷部さんが立っていた。私は、一瞬にして凍りついた。

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