21、洋子の涙。

 私は呆然としてた。
洋子さんは私じゃなく、私のお兄ちゃんが原因で、私に対して意地悪なことしてるんだ。若葉ちゃんも、ただの傍観者にすぎなかったのに・・・許せないんだね。。

 ごめんね・・ごめんね洋子さん。。

月曜日、運動会の練習があった。大縄跳びの練習と、クラス対抗リレーの練習。

 まず、大縄跳びの練習から始まった。

 洋子さんが、縄を回す当番になった。しかも、私の近く。というか、並ぶ順番が背の順だから、さっちゃん・私・若葉ちゃん・・・・・・明日香ちゃんと言った感じになってしまった。

「牧村さん、椎名さんと場所変わって。」

 何回か練習した時に、そう言った。

「未来、大丈夫だよ。」

と、さっちゃんが私の肩を叩いた。

 でも、不安なの。ロープが廻るのを見てなきゃ跳べない、でも、洋子さんを正視できない。鋭い目つきで私を見るの。怖いの。

 縄が私の足に絡まった。

「椎名さんっ!!!!」

 私の首元を掴んで、私を睨む洋子さん。

「ごめんなさい・・・。」

 私は必死だった。
他のクラスも練習してる・・高野くんのクラスだって、、怖かった。

「10分休憩ー!」

 先生が言った。そうすると、洋子さんの手は私を離した。

 私は、そのままグラウンドに座りこんだ。

 どうしたらいいの?
 どうしたら洋子さんは分かってくれるの・・・?

涙が、汗と一緒に流れた。

 急いで、汗拭きタオルを持って水道に走った。

「未来、ちょっと待ってよ!!」

 更衣室脇の水道所、誰もいない。そんな私を追って、若葉ちゃんは来てくれた。

「未来・・どうしたの? 泣いてるの?」
「若葉ちゃあん・・」

 私は、その場で涙が出た。

すると・・どこからか・・

「チガウっ!!」

と、声がした。

 若葉ちゃんと、その声がした方に近寄ると、更衣室の裏側に洋子さんがいた。もう少し近づくと、高野くんがいたんだ!
 若葉ちゃんと私は、息を殺すかのようにして、隠れるように二人を見た。

「椎名や、角田を、もういじめるのは寄せ。」

 高野くん・・・気付いてたの?

「だからチガウのよ!いじめてなんかない!」
「でも、俺は見たよ。長谷部が椎名達にいじめてるの。」
「私は・・・お母さんのために二人をいじめてるの。。」

 そう言ってる洋子さんの目が光った。そして、その光は雫になって、洋子さんの頬を伝った。

「私のお母さん・・去年の今ごろ・・私の弟を産んだの。高齢出産だったから難産だったの。・・私は、お母さんの代わりに家のこと、頑張ってた。でも、兄貴は違った・・・。兄貴は、いつも怪我して帰って来た。それは・・椎名久にやられたものだって知った。」
「椎名久・・椎名の兄貴か?」
「そうだよ・・。あのコの兄貴は、不良グループと仲良くしてたから、だから喧嘩も強いって知ってたのに兄貴は・・あのコの兄貴に勝負を挑んでた。」
「・・・。」
「弟が生まれる日もそうだった。母さん、死にそうだった。それなのに、兄貴は病院に駆けつけてこなかった。でも、お父さんが来て、お母さんも弟も無事だった・・でも、その間、お母さんを苦しませてのは、椎名未来の兄貴のせいだよ!! 兄貴が怪我して帰ってくるたびに思った。あのコだけは許せない。って。」
「でも・・それは逆恨みだよ。未来は、何も関わったわけじゃないだろ。」
「兄貴が、そうなら妹もそうだよ。だから私は許せないの!!」

 わぁぁと泣いて、洋子さんは高野くんに抱きついた。

ズキン・・・

 私の心は、何本も針が刺さったような気分だった。

 ごめんね、じゃ、すまされない。

でも、それ以上に、高野くんの胸で泣く洋子さんの姿が辛かった。

 洋子さんも高野くんが好きなんだね・・・


 私は、その場から逃げ出してました。
涙を堪えながら・・・
20、真実。

 その週の土曜日は第2だったので、お休み。もう少ししたら、運動会もあるので、結構、毎日が大変だった。

 今年は2年生の恒例イベント「大縄跳び」がある。一致団結しなければ跳べない。私達のクラスは、どうなんだろう。。

 そんな土曜日、私と、若葉ちゃんと、藤木くんと、しもちゃんで遊びました。

 遊んだというより、藤木くんの家にお邪魔しただけだけどね。

 その帰り道。

「あら、角田さんに、下出くんじゃない。こんにちわ。」

と、1歳くらいの子供を抱えた40代後半くらいのおばさんが声を掛けた。

「あ、こんにちわ。」
「こんにちわ。」

私も、
「こんにちわ。」
と、言った。

 お辞儀して通り過ぎてったおばさん。

「ねぇ、今の人、誰だっけ?」

と、しもちゃんが言った。

「洋子の母親だよ。」
「そうだ、そうだった。長谷部のお母さんだ。」

その時に私の頭に、あることが思い出された。

「しもちゃん!!」
「な・・何? 椎名?」
「ねぇ、去年の今ごろさ、洋子さん、みんなにからかわれてなかった?子供が出来たとか。」
「あ!! そうそう! 弟が生まれたから、からかわれてたね。」
「うんうん。」
「じゃ・・も、もしや?」

 そうだ、思い出した。お兄ちゃん、去年の今ごろ、誰かと喧嘩して、停学になりかけた。

もしかしたら・・・と、思って、若葉ちゃんを私の家に呼んだ。

「この二人、見覚えない?」

 お兄ちゃんの部屋から、お兄ちゃんの中学の時の卒業アルバムを引っ張り出して、若葉ちゃんに見せた。お兄ちゃんと、洋子さんのお兄ちゃんの写真を。

「あ!!」

 そう言ってた時に、お兄ちゃんが帰って来た。

「お兄ちゃん!!!」

「おぅ、未来、ただいま。」
「ただいまじゃないよ。お兄ちゃん、長谷部って人と、なんで喧嘩してたの?なんで?」
「お前、なんで知ってるんだ?・・君は・・。」

 お兄ちゃんが、若葉ちゃんを初めて見たはずなのに、知ってるかのような素振りをした。

「未来、落ち着いて聞けよ。」

 私と、若葉ちゃんは、息を飲んだ。

「俺と、長谷部が喧嘩してたのは、どっちが足が速いか、よく、競ってたんだよ。ただ、長谷部は、どうやっても俺より、遅くて、なのに「もう1回!次は負けねぇ!」って、何度も挑戦するんだ。でも、俺だって、用事あるのによ。いつも、それで
突っかかってきて・・・だから、いつしか、取っ組み合いの喧嘩にもなった。」

 お兄ちゃんは続けた。

「長谷部の家に弟が生まれるって日に、それでも、あいつは俺と勝負したくて来た。俺は「病院に行けよ」って、言ったのに、行かなかった。その時に、たまたま通りかかった、陸上部員にタイムを計ってくれと頼んだんだ。その中に、君がいた。」

 と、若葉ちゃんを見て言った。

「でも、長谷部のヤツは、何度も挑戦してきた。その後に知ったんだ。あいつが病院に来ないから不安になったお母さんが難産だったということを。でも、俺は、それを責められたりしなかったけどね。」

 ようやく糸が繋がった気がした。

 洋子さんは、私のお兄ちゃんが、自分のお兄ちゃんを塞き止めてたと思ってるんだ。しかも、タイムを測らせられてただけの陸上部員の若葉ちゃんたちのことも塞き止めてたって思ってるんじゃないかな。

 そんな真実。

私は、知らなかった。

 でも、これから、変わるのだろうか?
 分かってもらえるのだろうか?
19、兄の過去。

 私達は、ずっと考えてました。何が、洋子さんを苦しませてるのか、私と若葉ちゃんに関係あることを全て考え直してみても見つかりませんでした。

 そんな、こんなで2学期になりました。

相変わらず、洋子さんの厳しい態度で私達に詰め寄ってきたりしました。

 そんなある日の放課後。

図書室は、クーラーがきいてるので、夏の時期は、利用者が増えます。今日もまた、さっちゃんと、明日香ちゃんは来ていた。若葉ちゃんは部活だった。

「ねぇ、未来。ココ分かる?」
「んっとね・・これは、なんだっけ??」

「それは、こうだよ。」

 藤木くんも、藤木くんの幼なじみで1年の時、私と同じクラスで、同じ図書委員の下出くんも、よく図書館に来るようになって、6人で和気藹々としてることが多くなってきた。

 私は空っぽだった。

みんなと話してて、楽しいのに・・でも、何か寂しかった。

 あれきり、高野くんとすれ違わなくなった。

このまま、洋子さんとも和解できずに、高野くんにも思いを打ち明けることなく、3年生になってくのかな。。

その時だった。

「生徒の呼び出しをします。2年4組の椎名未来さん、2年4組の椎名未来さん、至急、職員室まで来てください。」

「えっ? なんだろう。しもちゃん(下出くん)、あと、よろしくね。」
「ほいよ。」

 私は、何かマズイことでもしたのかな? この前の小テストで赤点でも出しちゃったのかしら・・。

 不安が過るなか、職員室に行く。

「失礼します。」

 職員室に入ると、

「おお!!! 椎名!!」
「え? あ・・大町先生!」

 大町先生、私の1年の時の副担任で、私のお兄ちゃんが、2、3年でも、お世話になった人である。

「久(兄)は、元気してるか?」
「はい、おかげさまで、大町先生のおかげで、随分と、変わったって、お母さんも言ってます。」
「そうかそうか、未来の方は、どうだ? 頑張ってるか?」
「はい。一応。」
「久は、長谷部と、よく喧嘩してたけど、妹同士は、喧嘩ないか?」
「えっ?」

 私は、その言葉にキョトンとした。

「なんだ、知らなかったのか? 長谷部洋子の兄は、お前の兄と、よく喧嘩してたんだぞ?」
「本当ですか?」
「本当も何も、妹同士は、喧嘩ないのなら、いいんだ。」

 私のお兄ちゃんと、洋子さんのお兄ちゃんが喧嘩してた。

 もしかしたら、それに何か関係してるのかな?

 私は、大町先生と少し、話した後、開放されて、図書室に戻ってった。

 でも、喧嘩してたとしても、どこで、若葉ちゃんと関係があるの?

 それがわからないよ。

 もつれた糸は、そう簡単に解けない。でも、そのまま切ることも出来ない。
 難しくてもいい、解けることを信じていたい。
18、そのままの君で。

 水曜日、私と若葉ちゃんと藤木くんは放課後に、音楽室に行った。

「私、ピアノ弾けるんだ!」

と、若葉ちゃんがピアノの前に座り、ピアノを弾き始めた。

「あ、これ!知ってるー!去年、若葉ちゃんのクラスが合唱コンクールで歌ったね!」

 「そのままの君で」

私は、思わず歌い出した。すると、藤木くんも歌った。

「約束しよう 僕らは別々の人生を歩んでいくけれど
 いつかどこかで 偶然出会ったなら 心の底から語り合おう
 変わらない何かを確かめ合っていきたい
 幾つもの思いを 素直に伝えたい
 そんな仲間でいて欲しい
 いくつ年をとっても
 君は 君で いて欲しい」

 なんか、すごく気持ちよかった。
私、歌が好きなんだな。

「あんた達、バカじゃないの?」

 洋子さんが入ってきた。

「あんた達のこと私は許さない! どんなことがあっても!!」

 強い衝撃を受けた。
なんで・・なんで、そこまで私達を許さないの? 何が?

「長谷部、なんでだよ?何が不満なんだよ?椎名や角田の何が許せないんだよ?」
「あんた達には、一生わかんないわよぉ!!!」


 そう言って逃げるように去った洋子さん。

私達には、疑問があった。
 私と高野くんが仲良くしてるのが原因で私にいじめようとしてるのかと思った。
だけど、違う。
 私と若葉ちゃんが仲良くしてることが、洋子さんにとって苦痛らしい。
 でもなんで? なんで?

 洋子さんが、どうして、そこまで許せないのか、全く分からなかった。

 音楽室にあった、アコギを手に取った私は、まだ一曲しか弾けないけど・・・ある曲を弾いた。

「禁じられた遊び」

 指にあたるナイロン弦の痛みが、何故か、いつもより痛かった。
17、大事な友達との喧嘩。

 さっきの衝撃的なことで、私と若葉ちゃんは、真っ白になってた。
 そして、帰り道。

 私は、若葉ちゃんに言った。

「やっぱり、ダメだよ。若葉ちゃんまで、またいじめられちゃうのよ?そんなのダメだよ。」
「いいの、未来が心配することじゃないよ。」
「でも、ヤダ! 私、若葉ちゃんも巻き沿いにしたくない。これは、洋子さんが勝手に私を逆恨みしてるだけのことだもん。若葉ちゃんには関係のないことだもの。」
「あっそう。」

 私は、勢い任せに言ってしまったことに、我に返ってハッとした。

「未来が、そういうならいいよ。私は、何も口出ししないよ。でもね、心配してる人間のことも少しは考えたら?未来が、そんなに分からず屋だとは思わなかった!」

 そう言って若葉ちゃんが駆け出して行ってしまった。

 ぽろぽろ流れる涙。私・・・何、言ってしまったんだろう。。

 だって・・若葉ちゃんは、洋子さんにいじめられた経験あるから、私のせいで巻き沿いになって、また傷つけたくないからじゃない。。

 どうして・・どうして・・・?

 喧嘩したかったわけじゃない。
私は、ただ若葉ちゃんを守りたかったんだもん。

 それから日曜日も、ずっとボォーッとしてた。

 月曜日、気が重かった。でも、そんなことで学校を休めないし、辛いけど、通学路を歩いてた。

「椎名、はよーっす!」

 後ろから、藤木くんの声がした。

「あ・・・、おはよ。」
「なんだよ? 元気ねぇじゃんか!そんなんじゃ長谷部達に負けるぞ?」
「ん。。。」
「ホントどうした?」
「若葉ちゃんと喧嘩しちゃったぁ・・。」
「えぇっ?」
「だから、そんな泣き腫らしたみたいな瞳してんのか?」
「・・・。」
「ほら、行くぞ!!」
「ちょっとぉ、何すんの!」

 藤木くんに私の腕を引っ張って教室に連れてった。

「角田、ちょっといいか?」

と、教室でさっちゃんと明日香ちゃんと話してた若葉ちゃんに藤木くんは声を掛けた。

「何よ?藤木。 ・・未来。」
「若葉ちゃん・・」

 どうしよう・・。何て言おう。

「あのね・・一昨日は、ごめんね。私、自分勝手だった。若葉ちゃんの気持ち、ちゃんと分かってなかった、反省してる。だから仲直りしてください。」
 
 私は、ふかぶかと頭を下げた。

「もう、やってられないよ。未来、私、未来が思ってるほど、未来のこと大切に思ってないわけじゃないからね。大事な友達じゃん!」
「若葉ちゃあん・・・。」

 私は若葉ちゃんに抱きついて、涙を流した。

私、若葉ちゃんのことも守れるくらいに強くなるね。そして、一緒にまけないようにがんばりたい。
16、悲しい土曜日。

 次の日は土曜日だった。学校に行くと・・・下駄箱の中の上履きに画鋲が、たくさん入っていた。

 クラスに入ったら、ワザと洋子さんの取り巻きが私にぶつかってきた。

机の上が、チョークの粉でイッパイになってた。後ろでクスクス笑う声がした。洋子さん達の笑い声。

 私はバックを背負ったまま、教室を出たんだ。

まだ来ない、若葉ちゃん、明日香ちゃん、さっちゃん。

 涙を堪えながら、下駄箱まで降りてきてしまった。

「おはよーー! 未来? どうしたの?」

 ちょうど来たのは若葉ちゃんだった。

「わ・・わか・・若葉ちゃん!!!」

 私は、堪えてたものを全て吐き出すかのように若葉ちゃんの目の前で泣き出してしまった。

「み・・未来!?」

 どうしたらいいの?

 私、洋子さんに勝てっこないよ。
 洋子さんみたいに自信ないし。
 洋子さんみたいに強くも無い。

 どうしたらいいの?

 若葉ちゃんに支えられながら教室に戻って、とりあえず3時間の授業を受けた。

そして、若葉ちゃんに連れられて、体育館の裏に来た。

「今朝、どうしたの?」
「あのね・・あのね・・・。」

 私は、全部話した。

高野くんが私を妹みたいにしか思ってないことを知ったこと、
洋子さんの仕打ち・・

「未来、泣かないで。ね?」

 私は流れる涙が止められなかった。たとえ、小さなことでも、私の心には深く傷付いたから。

「目障りなんだよね。」

背後から声がした。洋子さんと、その取りまきだった。

「椎名さんってさー、大人しそうだけど、うちらから見たら、すんごい目障り。大して可愛くもないのに、おさげしてたりさー、ぶりっ子してたり・・・そういう女って、すんごい嫌いなんだよね私。」
「洋子! 未来のどこがぶりっ子なのよ? え?」
「若葉、あんた、またいじめられたいの? 椎名さんを庇わなきゃ、あんたを巻き沿いにしないから、どうする?」
「若葉ちゃん・・」

 なんで、この人は私を目の敵にするの? だって、高野くんは私を好きなわけじゃないのに。。

「私は、洋子と組もうなんて思わない。あんた達と、仲良しごっこするくらいなら死んだほうがマシだ!!」
「ふぅーん、そう。じゃ、いくらでも友情ごっこしてればいいよ。あとで痛い目あっても知らないからね。」

 そう言って去っていった。

「未来・・一人じゃないからね。私も一緒だからね。だから、もう泣いちゃダメだよぉ。一緒に戦おう。」

 若葉ちゃんの言葉に私は励まされた。

でも、これから、惨すぎるいじめが始まる事を予感はしていた。
15、図書室での出来事。

「うぅーー、つまんないよぉ。」

 今日も放課後の図書室の当番があった。同じ当番の人は、サボってこないし・・しかも利用者も少ないし・・私は、カウンターで嘆いてた。

 明日香ちゃんも、さっちゃんも塾に通い出したらしくて、サッサと帰っちゃうし、若葉ちゃんは、部活だし・・。いちお、部活終わるのを待ってるんだけど・・・

「あの、本、借りたいんだけど。いい?」
「え? うわぁぁぁ!!!」

 ビックリした、高野くんが私に声を掛けていたんだ(汗)。 私、ビックリして椅子から落っこちた。

「椎名・・平気か?おい?」
「だって・・だって・・ビックリするよぉ!!」

 高野くんは私の腕を掴んで、起こしてくれた。素の手が優しかった。

「高野くん・・」
「何?」

 私、何を言おうとして声掛けたんだろう今。何も無いよぉ。。どうしよう。

「何? どうしたの?椎名??」

「ちょっと、そこの二人!!!」

 声のする方を見ると、洋子さんが立っていた。

「図書室で何してんのよ! 椎名さん、あんた図書委員でしょ? 何、男とイチャついてんのよ!」
「別に、そういうんじゃないよ。」
「長谷部さ、あんまし椎名に、突っかかるなよ。可哀想じゃないか。」
「何で望が庇うのよ? じゃあ何? 望は、椎名さんのコトが好きなわけ?」

どくん・・・

 高野くん・・
何て答えるのかな・・?
知りたい・・
でも、怖い・・・。

「椎名は・・・妹みたいなものだよ。だから、ほっとけないんだ。」

イモウト・・・。

「そうよねぇ、椎名さんは、まだ子供っぽいものねー。妹か、そっかー。なら良かった。」

コドモッポイ・・・。

「望、ちょっと数学で分からないとこあるの。教えてくんないかな?」
「どこ? 見せてみろ。」
「じゃ。教室来てよぉ! じゃあねー、椎名さん。」

どくんどくんどくん・・・。

 私の頭の中は、真っ白でした。

高野くんは私を妹のようにしか見てないんだ・・・。

だから、心配してくれたの?
だから、そんなやさしいの?

 何もかもが真っ白になっていった。

私の恋・・・初恋は・・・終わっちゃうの??

ねぇ。どうしたらいいの?
14、洋子と高士。

「ワザとぶつかったんでしょ?」
「そ・・そんなワザとなんて・・・」
 洋子さんが私に詰め寄る。私は、後退していく。

「椎名!」

「高士。」

!?

 え? 今・・・高士って呼んだ。

「長谷部、寄せよ。椎名だってワザとじゃないって言ってるんだ。」
「わ・・分かったわよ。高士に免じて今日は許すわ。」

 そう言って、サッサと逃げていくように帰っていった洋子さん。

「でも・・どうして? どうして、洋子さんは藤木くんを高士って呼ぶの?」
「俺・・小学生の時、長谷部から告白されて、振ったんだ。それで、喧嘩友達みたく仲良くしてた角田が、俺の好きな人だって勘違いされて、長谷部は角田をいじめた。」
「え・・。」
「だから・・俺は、角田を助けてやる事が出来なかった。助けたら、また、いじめられちまうから。」
「・・・。」
「でも、今度は守ってやりたいんだ。椎名を。」
「藤木くん・・。」

 頭の中がパニックだった。洋子さんが若葉ちゃんをいじめてたこと、洋子さんが藤木くんを好きだったってこと、藤木くんが私を守りたいこと。

 全部、小さなことで繋がってる。

 もしかしたら、私は若葉ちゃんと出会ったのは運命なのかもしれない。

 次の日、私は若葉ちゃんに手紙を書いた。昨日のこと、全部、真実かどうか・・・答えてくれないかもしれないけど。

 放課後。図書室で。

「そうだよ。私、洋子にいじめられてたの。」
「若葉ちゃん・・」
「でも、終わったこと。私が、藤木と仲良くしてたから勘違いされたみたいでね。」
「うん・・」
「だから、未来が心配なんだよ、藤木は。分かる?」
「でも私・・・守りたいなんて言われたの初めてで。高野くんがいるのに・・好きなのに。」
「藤木に甘えればいいよ。」
「でも・・」
「あいつは私を救ってくれなかった。でも、もし、今回、未来も救えなかったら私は、あいつを恨む。」
「若葉ちゃん・・・」

 どうしたらいいんだろう。

守ってくれるなら高野くんがいいなんて思ってしまう。だけど・・高野くんは何も知らない。

 図書室を締めて、鍵を持って職員室に行く。職員室の窓から、高野くんが洋子さんと話してる姿が見えた。

 胸の奥が、グッと締めつけられてるようで、苦しかった。

「未来。」

 若葉ちゃんが震える私の肩を叩いた。私は、私は・・・これから、どうなっていくんだろう。
13、若葉の好きな人。

 その翌週、私は、若葉ちゃんの陸上部が中庭で練習するのを自分の部活のパソコン部の窓から覗いた。

 若葉ちゃんが、柔軟体操してた時に私と視線がぶつかり、
「そうだ!」
と、何かに気付いた若葉ちゃんは私に手招きをする。

 部室の窓を開けて、

「どしたの?」
「例のあれ、教えるよ!」

 あ・・好きな人のことか。そして、若葉ちゃんが、そっと窓辺に来て私に耳打ちをする。

「そこにいるのが時岡理。」

 時岡? 

あ!!!思い出した!!!
 
 去年の運動会で、この人・・学校の記録を塗り替えちゃった長距離ランナーだ!!

 なるほど。

 でも、いいなぁ。好きな人と、同じ部活で。

 高野くんは、同じパソコン部なんだけど・・代表委員会で、委員会が忙しいから、たまにしか顔を出さないし・・・。つまんないよー。。

「椎名!」
「藤木くん。」

 そのまま窓辺にいると、廊下から藤木くんの声がした。

部室を出て、藤木くんのトコに行くと・・

「何?」
「椎名、ちょっと出てこれるか?」
「うん、いいけど。」

 部室に戻って、自分のバックを持って顧問の白ちゃん(白井先生)に断って、部室を出た。

「橋本に聞いたんだけど。この前の鼻血、長谷部が集中攻撃したんだって?」

 中庭に来て藤木くんは話し出す。

「え?」
「俺、長谷部と小学校同じだけどさ、アイツ、弱いやつ見ると、いじめるんだよ。」
「いじめじゃないよ。たまたまだよ、きっと。私、とろいし・・・」
「でもな、椎名。角田は・・・」
「角田って、若葉ちゃんがどうしたの?」
「角田も同じ小学校なんだ。」
「うん。」
「角田・・・小学校の時、長谷部にいじめられてたんだ。」

!!

「だから・・・角田は辛いと思う。椎名が、今、標的になってるの。」
「どうして? どうして嘘つくの?」
「嘘じゃないよ。」
「若葉ちゃんの口から聞かないと信じないもん!」

 そう言って私は、校門に向かって走り出した。

ドンッ!

 人にぶつかった。

「ご・・ごめんなさい。」
謝ると・・・
「良い度胸してんじゃないの。」

 顔をあげると、長谷部さんが立っていた。私は、一瞬にして凍りついた。
12、赤い痛み。

 中間テストが終わった。結果は、平均。もっと、勉強すれば、良かったかもしれない。でも、数学は良かった。その点、国語はガタガタ・・・。

 テスト明けに体育があって、余計にブルーだった。

「今日の体育はドッジボールをします。」

 体育の香田先生は、言った。よりによって・・・ドッジボール(涙)。私の大嫌いな競技。明日香ちゃんと、さっちゃんはサッサと外野に行っちゃうし・・若葉ちゃんと一緒に逃げまわってた。なんてたって、相手チームは、洋子さんと、その取り巻き達なんだもん。

 洋子さんの投げるボールは、きつい。明日香ちゃんに当たった時、「バン!」って、音がした。

「み・・・未来! 危ないっ!」

 洋子さんによって投げられたボールが私目掛けて飛んできた。

バァン!!!

「い・・いった〜〜い・・・。」

 顔面直撃した。顔全体がヒリヒリするように痛い。

「顔なのでセーフ。」

え?? アウトじゃないのー。わぁあぁん。。

 それでも、洋子さんは私を狙って投げる。顔面目掛けて。何度も顔面に直撃した。

バン!!!

 また、ぶつかった。

ぽた・・・ぽた・・・。

「未来!!?」

 若葉ちゃんが駆け寄る。なんか気持ち悪い・・。床を見ると、赤いものが落ちていった。

「未来、上向きな!」

 明日香ちゃんも駆け寄って、そう言った。私は、自分の鼻を触ると、赤い血がついたのに気付く。

え? は・・鼻血??

「先生、私、椎名さんを保健室に連れていきます。」

 そう言って、私の肩を抱いて、明日香ちゃんが保健室まで誘導してくれた。

 私は、汗拭きタオルを水で濡らし、鼻を押さえた。

「保健婦さん、職員室にいるみたいだから私、呼んでくるね。」
「うん。」

 そう言って、明日香ちゃんは走り出す。私は、保健室前の椅子に腰掛ける。

すると・・・

「イテテテ・・・」
と、男の子が、左肘を擦りむいたらしく、やって来た。

「椎名? どうしたんだ? 鼻血?」

 この声・・藤木くんだ。

「う・・うん。藤木くんは?」
「俺はサッカーで勢いあまってコケちゃったら、擦りむいた。」
「そっか。。」
「でも、鼻血って、変なことでも考えたのか?」
「ち・・違うよ。ドッジボールで顔面にぶつかったから。」
「ふぅーん。そう言えば、椎名と話すの初めてだな? 最初の会話が、こんなんじゃカッコ悪いや」

 そう言って、お互いに笑った。

そうだね、なんか初めて話す感じがしなかった。
そして、しばらくして保健婦さんを連れて明日香ちゃんが戻ってきてくれて、処置をしてもらった。

 藤木高士くん・・。初めて話した感じがしなかった人。まさか、この後で色々助けてもらうなんて、この時の私には何も知りませんでした。
11、こころの痛み

 中間テストが、やって来た。全然、楽しくない。部活動も一週間前から中止だし、もちろん図書室も臨時休館。

「未来、勉強してる?」

 お母さんが私を見に来た。私は、図書室で借りた「こころ」を読んでいた。

「今、授業でやってるの?」
「ううん、やってない。」
「勉強しなさい、でないと、皆に置いて行かれちゃうわよ。」
「はぁい。」

 それでも私は、引き込まれていた。そして、怖い考えが出来ていた。
「わたし」と友人Kが同じ女性を好きになって、「わたし」が、そのお嬢さんをお嫁さんに出来ることになって・・・それを知ったKが自殺してしまう。
 明日香ちゃんや、さっちゃんの思いが過った。

 もしも、清水くんが、二人のうち、どちらかを選んだら・・・残されたどちらかは、どうなるんだろう・・・。
 私も、もし、洋子さんに高野くんと両思いになられたら、どうなっちゃうんだろう・・・。

 恋愛は悲しい。
まだ私は一人・・高野くんしか好きになってないから、予測の出来ない苦しみを考えがたいものだった。

「ふぅーっ・・・」

 次の日、私は大きな溜息をついた。
「どうしたの?未来。」
「あ・・・若葉ちゃん。」
「『あ・・・若葉ちゃん。』って、随分前から、いるんだけど。」
「ごめんごめん。」
「テスト勉強進んでる?」
「あんまし・・・(汗)。」
「あんたねー、さ来年は受験生よ?うちら。」
「うん・・・。」

 受験。
高野くんは、頭いいから、きっと、偏差値の高いとこに行きそう。私は、平凡だからなー。一緒のトコなんて望めないよな・・・。

「椎名さん、ちょっと。」

 呼び出されたんだ、洋子さんに。そうして、洋子さんの取り巻きに腕を両側で掴まれ、廊下に出された。

「あの・・・何ですか?」
「目障りなんだけど。」
「へ?」
「同い年に敬語つかって、いやらしいんだけど?分かる?」
「あ・・あの?」
「そうやって、ぶりっ子してると、あとで、怖いんだから覚えておきなよ!!」

 そう言い捨てると、立ち去ってく、洋子さんと、その取り巻き。

「未来、あんた・・大丈夫だった?」

 呆然としてる私の頬に触れた若葉ちゃん。訳がわからなかった・・・。でも、確実に目をつけられたことは確かだった。
10、未来の想い。

 それからゴールデンウィークに突入した。何も考えられないくらいだった。ずっと、ぼぉっとしてた。学校行くのが怖かった。洋子さんの仕打ちが怖かった。たった一回で終わるなんて思えないから。

 ゴールデンウィーク明けの6日。私は、昼休みに委員会があったので行った。

 私は図書委員になっていた。昼休みとか、本の貸し出し当番になってる時もある。

 様子を見に、若葉ちゃんや明日香ちゃん、さっちゃんも来てくれた。

 私は、夏目漱石の「こころ」を借りて、その日の当番を終えた。

 その放課後。4人で下校していた時に私は言った。

「あのね・・私ね・・皆に言いたいことあるの。」

 3人が、ビックリしていた。いつも、聞き役が多かった私が話すのは珍しいから。

「何?」
「どうしたの?」

「あのね・・・私の好きな人なんだけどね。若葉ちゃんには、もう知られているんだけど・・・。私、2組の高野くんが好きなの。同じクラスの洋子さんも好きみたいで・・・大変だけど。」

「え? 高野? あ! 清水と一緒にいる人?」
 明日香ちゃんが、そう言う。
「うん・・。」
「だから、この前、洋子が未来に嫌がらせみたいな事したんだね。」
 さっちゃんが納得した。
「だから・・・この先、3人に迷惑かけるかもしれないけど・・・」
「未来!」
 明日香ちゃんが私の目の前に来て、おでこを叩いた。
「迷惑なわけないでしょ。未来は、私らの友達だよ? 頑張って欲しいもん。だから、迷惑なんて思っても言っちゃダメ。」
「あ・・明日香ちゃん。」

「そうだよ!未来! 洋子なんかに負けないで!」
 さっちゃんが、私の肩を叩く。

「まだ未来達と仲良くなって、短いけど私も応援するよ!」
 若葉ちゃんが私の手を握る。

 みんな・・・。

 私は、嬉しくて泣いてしまった。
これから、どんな恐怖があっても、苦しくても、みんながいるから・・・頑張れる気がしてた。
9、傍観者・幸子

 次の日、体力テストだった。昨日の雨のせいでグランドは、ぬかるんでいたのに、延期になることもなく、1日中テスト漬け。だけど、明日香ちゃんは休んだ。若葉ちゃんは陸上部だから、計測係になっていたから、さっちゃんと二人でまわることになった。

「昨日、どうだった?」

 少し不思議そうに私に問い掛けたさっちゃん。

「明日香ちゃんも来なかったんだよね。でも、若葉ちゃんと二人で行ってきちゃったよ。」
「そっか。」
「あっ・・・!」

 私は、思わず声を出してしまった。体育館にいた私達の前で、清水くんと高野くんが、反復横跳びの計測の列に並んでいた。

「さっちゃん、反復のトコにいるね。並ぶ?」
「いや・・いいよ。見てるだけでいい。」

 清水くんは背が高いから目立つ。高野くんが目立たないわけじゃないけど・・・

「さっちゃん、どこかに並ばないと計測、全部終わらないよ?」
「うん・・。」
「さっちゃん?」

 ずっと清水くんを見ていた、さっちゃん。そんなに切なそうに見つめて・・・私は苦しかった。そぉっとしておいてあげようと思った。

 その時・・・!

ドンッ!

「きゃ・・・!」
「み・・未来???」

 後ろから、押されて、コケてしまう。すぐ、振りかえると洋子さんと、その取り巻きが立っていた。

「椎名さん、そんなとこで、ぼぉーっとされてたら通行の邪魔よ!」
「・・・。」
「ちょっと待ってよ。そんなに混んでるわけじゃないのに、未来だけ押すのやめなよ!」
「牧村さん、あなたも邪魔よ! 引っ込んでなさいよ!!!」

 怖い・・・、なんで? どうして?

「未来、行こう!」

 全然違う計測の場へ移った。苦しかった。でも、この場所から、洋子さんの様子が見えた。反復横跳びを終えた高野くんに話しかけていた。私だって、好きなのに・・・なのに・・・。

 さっちゃんも、やっぱり切なそうに清水くんを見ていた。ごめんね・・・私のせいだね。。

 それから、体育館の計測を終えて、グランドの計測後、身長、体重の計測をした。

 身長150cm 体重45kg これって、やっぱ重いのかなぁ・・・。憂鬱。でも、洋子さんよりは軽いよね・・・洋子さんは、太めだ。でも、だからって何か変わるわけじゃない。

 高野くんを好きなのは、私も洋子さんも同じなんだよね・・・
8、憧れの存在・明日香

「今度の開校記念日の時、4人で、どっか遊びに行かない?」

 さっちゃんが切り出した。もうすぐ、5月1日。私達の学校は開校記念日だ。でも、次の2日は、体力テストの日なんだけど。

「いいねぇ!遊ぼう♪」

 若葉ちゃんも、はしゃいでいた。

「そうだね。若葉も仲良しになったことだし、ぱぁっと遊びたいね。」

 明日香ちゃんも続く。

「未来は? 未来は、どう思う?」

 心配そうに私を見て言う、さっちゃん。

「うん、いいと思う。」
「でも、どこにしよっかぁ?」
「うう〜〜ん。。」

「俺達、豊島園行くんだけど、お前らも行かない?」

と、割り込んできた一人の男のコ。

「藤木、邪魔だよ!! あっち行ってよー!」

フジキ?

「橋本、お前の方がうるせーよ。」

 明日香ちゃんは、色んな人と話せて羨ましい。どうしたら、私は、明日香ちゃんみたくなれるんだろう。

 結局、その藤木くんが言ったからってわけじゃないけど、豊島園に行く事になった。

―当日。

「わぁぁん、雨だぁ。」

 せっかくの休みなのに、外は雨。

「未来、明日香ちゃんから電話よ。」
と、お母さんが言う。

「もしもし。」
「未来ー? ごめぇん。今日ね行けなくなっちゃったの。若葉や幸子にヨロシク言ってもらえるかな?」
「ん。いいけど。どうしたの?」
「雨降ってるしさー、そのせいで親が行くなって言ってね。」
「そっか・・残念だね。」
「ホント頼んでごめんねー。じゃあね。」
「うん、明日ね。」

 明日香ちゃんは来れない。 仕方なく、待ち合わせの時間に校門に行くと、若葉ちゃんしかいなかった。

「おはよう。あれ? さっちゃん、まだみたいね。」
「明日香もまだみたい。だけど、幸子は来れないよ。なんか用事出来たみたい。」
「えぇ? やだ。 明日香ちゃんも無理って電話入ったけど・・」
「そっか。 とりあえず2人でも行こうか。」

 二人で、豊島園に向かってった。

乗り物は、そんなに乗れず、お土産屋さんに行った。

「あ、これ可愛いー。」

 私の目に、星の指輪が目にとまる。黒い石が星の形してて、可愛いデザインだった。

「なんか、つけると気分によって色が変わるみたいね。」

 ムードリング。映画「MY GIRL」の主人公の女の子がつけてたっけ、そういうの。

 若葉ちゃんと二人、今日の記念として買った。

ほんと束の間の楽しい時間だった。
7、若葉の告白。

 それからというものの、私は洋子さんに無視されるようになった。しかも、洋子さんの友達とかにも。はっきり言って確信したのだった。

洋子さんは、高野くんが好き。私のライバルなんだ。って。

 明日香ちゃんや、さっちゃんは相変わらず、清水くんに会いに行ったりしてる。私と、若葉ちゃんは急速に仲良くなっていった。

「未来に今日、聞いて欲しいことあるの。」

 休日、家に若葉ちゃんから電話が掛かってきた。急いで校門の前に行くと、私服の若葉ちゃんが待っていた。

「聞いて欲しいことって・・何?」

 春風の吹く公園のベンチで私達は会話を始める。

「あのさ・・・この前の明日香の告白聞いてさ、なんか凄いなって思ったのね。」
「うん。」
「未来もいるんでしょ? 好きな人。」
「・・・うん。」
「私、なんとなくだけど分かっちゃったよ。2組の高野でしょ?」
「・・・。」

 私は、躊躇った。気付かれてたって言うことに対して。まだ友達になって1週間の若葉ちゃんは気付いた。でも・・・

「うん、そうだよ。」
「そっか・・・。」

 私は言った。初めて人に、高野くんが好きだってことを言ったんだ。

「私もね、今、好きな人いるの。その人ね、同じクラブなのね。今度、練習見に来てくれる?」
「えぇ? でも、私・・・クラブ違うよ?」
「いいよ、平気だよ。」
「うん、分かった。」
「時岡って知ってる?」
「ときおか?」
「うん、その人なの。好きな人。」

 時岡理くん、6組の長距離の陸上部員だそうで、私の全く知らない人だった。

 それから二人で、ブランコを漕ぎながら、お互いの好きな人について語り合った。

 これから、お互いの恋が辛く、そして、色んな意味で苦労していくなんて思ってもみなかった。
6、2つの思い。

「あのね・・・私と、幸子ね、今、好きな人が同じ人なの。それで、二人に協力してもらおうなんて思えなくて、黙っていようと思ったんだけど・・・その相手は言わなきゃと思ってたの」

 明日香ちゃんは、真剣な顔をして続ける。

「その人って、2組にいるの。」

―ドキン!

 私の中で、ビックリした。まさか・・・ね。2人も高野くんを好きだなんて思えないし。。

「今、そこの廊下で話してる人なの。」

と、言って、明日香ちゃんが言う場所を見ると、高野くんと清水くんがいた。

「清水隆之。その人なの。」

 小さな声で言う。

清水くん・・・確か、1年の時、明日香ちゃんと一緒に美化委員してたっけ。それで、うちの学年で一番背が高くて、バレーボール部で、すごい活躍をしてる人だ。

「だからヨロシクね。幸子は、見てるだけでも良いって言ってるけど、私は、見てるだけなんて嫌だから。」

と、言って、明日香ちゃんは、歩き出す。そして、清水くんに声を掛けた。

 すると、高野くんと話していた、清水くんは明日香ちゃんとの話しをしてて・・・身を引いた高野くんが私の方に来る。

「椎名、そんなとこで何やってるの?」
「な・・なんでもないっ!!」
「もう教科書とか忘れるなよな」

コツン

 高野くんが私の頭を軽く、小突く。しゅわしゅわと熱くなるホッペ。ドキドキが止まらない心臓。

 だけど、嫌な視線を感じた。

洋子さんが私を睨んでいた。私は、一瞬にして凍りついた。

「未来。洋子が睨んでるよ。逃げよ。」

 さっちゃんは、知らないうちに明日香ちゃんの隣にいた。私の近くにいたのは若葉ちゃんだけ。若葉ちゃんが私の袖を引っ張る。

「う・・うん。」

怖い。

 何か嫌な予感がする。

小さな休み時間。廊下で話す生徒の声が大きく響いてるのに、私の耳には、届かないくらいに、恐怖感が私を覆った。
5、恋愛と友情。

 あれから、数日経って、明日香ちゃんと、さっちゃんは仲直りをした。どういう風に仲直りできたのかは、知らないけれど、朝、二人が仲良く登校をしてる姿を見て、私も、若葉ちゃんも胸を撫で下ろした。

 その日、私は英語の教科書を忘れちゃって、違うクラスの友達に貸してもらおうとしていた。でも、なかなか声が掛けにくい。。どうしよう。

 何故か、2組の前に来ていた。
「未来、2組に友達いる?」
「う・・うん。」

 気をつかって、ついて来てくれた若葉ちゃんが、そう聞く。

―高野くん、英語の教科書、貸して―

 なんて言えない。すると・・・明日香ちゃんも、さっちゃんも来て、

「あ、えいちゃーん。未来に英語の教科書、貸してくれない?」

 さっちゃんが大きな声で2組の友達のえいちゃんに言う。

「あ、いいよぉ。」

 えいちゃん・・・1年の時、さっちゃんと同じクラスだった子。

2組の教室の中をキョロキョロする。高野くんがいない。どうしてだろう? えいちゃんに聞くのも変だけど・・・

 すると、後ろから・・・

「椎名?」

―この声。

「あ・・高野くん。」
「どうした?」
「あ・・教科書、忘れて・・友達に借りにきたの。」
「そっか。。」
「うん・・。」

―どうしよう・・・もっと、言いたいのに、何言えばいいか分からないよ。

「未来、はい。」

えいちゃんが来た。

「ありがと・・。じゃ・・じゃ、終わったら返しに来るね。」
「うん。」

 えいちゃんと話してると、高野くんは、ゆっくりと教室に入っていった。

 英語の授業中、なかなか集中できなかった。せっかく、高野くんが話しかけてくれたのに、何も言えなかった。

 すると・・・
後ろから、
「椎名さんに廻してください」と書かれた手紙が回ってくる。

 中を開けると、明日香ちゃんからだった。

「えいちゃんに教科書、返しに行く時、一緒に行くから。そのあとで、若葉も幸子も一緒に4人で話したいことあるの。明日香」

 どきどき。

明日香ちゃん、鋭いからな・・・気付かれたのかな。。

 えいちゃんに教科書を返しに行った時、またしても高野くんは居なかった。

そして、そのアシで、私達、4人は、階段に来た。

「あのね・・・未来、若葉。二人に言いたいことがあるの。」

と、明日香ちゃんが、深呼吸をして話し始めた。
4、喧嘩。

 朝。 最近、目覚めが悪い。2年生になったのに、何も進歩しない。相変わらず、遅刻ぎりぎり人間。

 駆け抜けてく通学路の前方に長い髪の女の子が見えた。間違い無く、明日香ちゃんだった。

「明日香ちゃーん!!」

 クルッと振りかえったのは、紛れも無く、明日香ちゃんだった。

「おはよう、明日香ちゃん。」
「おはよ。」
「あれ? さっちゃんは?」

 明日香ちゃんと、さっちゃんの家は近所だった。だから、毎日、一緒に登下校してるのに。

「幸子なら、先に行ったよ。」
「そっか。。」

 その時、私は感づいた。 二人は、喧嘩したって。明日香ちゃんは、通常、もっと明るくハキハキと話してくれる。でも、今日の明日香ちゃんは、なんだか苦しそうだった。

 教室に入ると、さっちゃんと、明日香ちゃんの間に重たい空気が流れていた。

 若葉ちゃんは、さっちゃんについて、私は、明日香ちゃんについて話を聞こうとしたけどダメだった。

 その次の日、明日香ちゃんは学校を休んだ。先生は「橋本さんは風邪で欠席です。」って言ってたけど、私と若葉ちゃんは違うって悟った。

 その放課後、私と若葉ちゃんとさっちゃんは3人で学校の屋上に行った。

「明日香と何があったの?」

沈黙を破ったのは、若葉ちゃんだった。

「別に何も・・・ただ、喧嘩しただけだよ。」
「喧嘩の原因は何? その原因が分からなきゃ、私や未来だって、どうしていいのか分からないよ。」
「若葉に未来は好きな人いる?」

 さっちゃんの口から思いもかけない言葉が出た。私は、高野くんが好きな事、誰にも言っていなかった。

「若葉は?」
「いるよ・・・そりゃ。」
「未来は?」
「いる。。」
「私と明日香もいるんだ。それを一昨日、お互いに協力しようってことで、誰を好きかって、打ち明け合ったの。」
「それで?」
「私と明日香、同じ人が好きだったの。」

「!!」

 私と、若葉ちゃんは絶句した。

「それで、喧嘩しただけだよ。分かった? もう、いいでしょ。また明日ね。」

 あっさり言って、その場を去っていった、さっちゃん。

 私は、どうしたらいいの?
 どっちを応援したらいいの?
3、伝えられない。

 授業が始まった。数学の先生は、また豊田先生だった。この先生の授業は雑談が多い。だけど、私は数学が嫌いじゃなかった。他の皆が嫌いなものを好きな気がして、疎外感も少しあった。

とんとん。

 後ろの子が私の背中を叩く。

「佐藤さんにまわして」と、書かれた手紙のようなものが回って来た。

 私は、こういうのが苦手。授業中なのにって思う。


「うわぁん。。やだよぉ。。。」

次の授業は体育だ。運動音痴な私にとって、一番、嫌な時間。

「未来、体育嫌いなの?」

若葉ちゃんが問う。

「ん。。嫌い。」
「未来はね、小学生の時から嫌いだったよねー。」

と、明日香ちゃんは付け足す。

すると。

 前方から、1、2組の男のコが来る。そっか・・・前の体育の授業は、1、2組なんだと思っていた。

―高野くん!!

 高野くんが、歩いて、こっちに来た。バレーボール部で有名な・・・清水くんと一緒にいる。どうしたらいいんだろう・・・。

「望〜〜!!!!」

―よ・・洋子さん。

 私の胸の中で、ガラスが割れるような痛みがはしった。

 私には、知らない人と話してる高野くんには声が掛けられない。1年の時だって、半分以上は、高野くんが声を掛けてくれたし・・・洋子さんのようになりたい。。

「未来? 行くよ。」

 若葉ちゃんが私の手を引っ張る。

 体育の授業は辛かった。いきなり1000m走らされたりした。全然、体力無いもん。。ずっと、息切れしっぱなし。

 でも、若葉ちゃんは、陸上部なだけあって、走り方がキレイだった。でも長距離ランナーじゃないらしいんだけど。。

 私には、何があるんだろう。
 私には、何を磨けばいいんだろう。
 こんなんじゃ、きっと・・・
 ずっと・・・

 初恋は、実らない。
2、友達。

 2年4組の教室に入ると、結構、知らない人が多かった。

―あ、あの子って、ウチの学校のトップの子だったよね

―あの人って、なんかの大会で賞をもらってたよね

 なーんて、こっちは知ってるけど、向こうは私みたいな平凡な子は知らないだろうけど。。そして、担任の先生が現れた。

 先生は美術を教えてくれてた井出先生だった。先生の話を聞きながら、窓側を少し見る。私の視界に洋子さんの姿が映った。

 洋子さんと、また同じクラスなんだ・・。って事は、洋子さんも私と対等?かな。

 でも、なんか憂鬱だなー。

 明日香ちゃんもさっちゃんも仲良しさんで、私も中に入れてもらうのは、やっぱ忍びないし・・

 先生の話のあと、「始業式」のため、体育館に行く。各クラスの担任発表とか、していた。私は2組の方を少し見る。高野くんを見つけた。

 静姿勢で、他の男の子と違って、ふらふら動かないんだ。1年の時は、高野くんはウチのクラスの代表委員をしていたから、前を見れば必ず、高野くんは見れた。

 そんな、少し切ない思いのまま、次の日を迎えた。新一年生を迎えるための準備をしに学校に行く。途中で、明日香ちゃんと会って

「あれ?さっちゃんは?」
「なんかねー、受け付けの係になったみたいで先に行ったよ。」
「そうなんだー。」

 教室に入ると、さっちゃんが見慣れない子と、お話をしていた。

「幸子ー、おはよー!」
「あ、来た来た! 明日香に未来、おはよー!」
「おはよう!」

 見知らぬ女の子は、私にも笑いかける。思わず、明日香ちゃんの後ろに隠れる。

「未来は、ちょっと人見知りするけど、良い子だよ。」
「はじめまして。橋本明日香です。よろしくね! そんで、この子は、椎名未来。」

 明日香ちゃんが私のことも紹介してくれた。

「こちらこそ、はじめまして。角田若葉です。」

 これが、私と若葉ちゃんとの出会いだった。

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